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2016年10月2日(日)

2016とくほう・特報

首相演説への起立・拍手を考える

「行政府の長」が号令 国会議員を“提灯もち”に

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 安倍晋三首相は、9月26日の国会での所信表明の最中に、自衛隊をたたえて、これに自民党議員がいっせいに起立・拍手して応じたことが波紋を広げています。首相は「私が促したわけではない」「どうしてそんなに問題になるのか理解できない」(9月30日、衆院予算委)と開き直りましたが、安倍政権の姿勢を象徴するものとして批判はなりやみません。この異常なスタンディングオベーション(起立して拍手・喝采)が意味するものは何なのか、識者の意見を交えて探りました。(特報チーム)


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(写真)自民議員と一緒に拍手をする安倍首相

 安倍首相は、海上保安庁、警察とともに「自衛隊の諸君」に「今この場所から、心からの敬意を表そう」と議場に向かってよびかけました。これに応じて自民党議員が拍手をしながらいっせいに立ち上がりました。首相も所信表明を中断して一緒に拍手しました。

 この事態に、議事をつかさどる大島理森衆院議長が「ご着席ください」と3回制止しましたが、拍手は鳴りやみませんでした。

 「自然発生的に起こった」(自民党・佐藤勉衆院議運委員長)のではありません。安倍首相が「今この場から敬意を」と意図的に促した結果でした。自民党国対のメンバーが若手議員に「拍手してほしい」など事前に「指示」をしたとの報道もあります。(「朝日」9月28日付)

 住友陽文(あきふみ)大阪府立大学教授(日本近現代史)は、「現場で任務に当たっている人に敬意というが、そういう人はたくさんいる。ことさら自衛隊や警察などに限っているのは、国の安全保障にかかわることに限定して礼賛するためとしか考えられません」

 さらに「気になるのは、自衛隊や警察を称賛するだけでなく、自分のステータス(地位)を上げようという意図を感じます。他人のことを称賛する時にはその自分に高揚感があるものです。そういう意味では不気味なものを感じます」といいます。

軍事に「責任と誇り」

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(写真)安倍首相の呼びかけに応えて起立して拍手する自民党議員(手前)=9月26日、衆院本会議

 安倍首相が自衛隊をたたえたのは、「外交」のところで、北朝鮮の核実験、東シナ海・南シナ海問題にふれ、「わが国の領土、領海、領空は守り抜く」と強調した直後でした。

 自衛隊が災害時の救命・救援に当たっていることを多くの国民は共感し支持していますが、安倍首相が自衛隊の「任務」として求めているのは軍事的な意味での「強い責任感と誇り」であることは文脈からいって明確です。

 岩手県で安保法制に反対する先頭に立ってきた小笠原基也弁護士は、「国会議員に賛同を求めたことに違和感がある」といいます。「内閣総理大臣は立法機関である国会と距離をおいてやっていかなければならないのに、議員に提灯(ちょうちん)持ちを求めた。党の行事と国会とを取り違えているのではないか」と批判します。

 「行政府の長」である首相が立法府の構成員たる国会議員に号令をかけたのは、「三権分立」をわきまえない異常な行動です。5月にも安倍首相は自らを「立法府の長」と言い問題となりましたが、今回はそれを行動で示したのです。

 さらに小笠原氏は、立ち上がった自民党議員もおかしいとして、「国会は法律にもとづいて自衛隊などの権力機構をチェックする機関です。近隣との紛争で一触即発にならないよう対話で解決に当たっているNPO法人、外交官などを一緒にたたえるのであればわかるが、安倍政権の政策の中心は武力による威嚇と解決が前提になっている。自分で危険をあおっておいてがんばって、というのはきわめて無責任だ」と指摘します。

 自民党の高村正彦副総裁は30日、「スタンディングオベーションをすると叱られるのは、グローバルスタンダード(世界基準)に合っているか」と安倍首相の行動を擁護しました。しかし、よくいわれる米国の場合、大統領の一般教書演説でスタンディングオベーションが起きるのは普通のことですが、それは、例えば9・11の同時多発テロのさい、救助にあたった消防士を議会に呼んでいて、そこにふれたときに自然に起きたものでした。大統領が「敬意を表そう」などと先導することはまずありません。

 安倍首相の行動は、米国と比べても特異な行為なのです。

背景に戦争法の運用

 所信表明では、安保法制=戦争法の具体化については一言もふれませんでした。しかし、この自衛隊をたたえる起立・拍手をやらせたことは、政府が今、南スーダンPKO(国連平和維持活動)に派兵している自衛隊の任務の拡大、武器使用の拡大をはじめ戦争法の全面的な運用によって、自衛隊員をこれまでになく危険にさらすという背景なくしては説明できないものです。

 小笠原氏は「安全保障は憲法の精神を生かして外交努力でやっていくんだというのが本来的な話。憲法尊重擁護義務を負う内閣総理大臣が平和憲法を無視して、海外での武力による威嚇や行使というまさに安保法制を前提に、自衛隊の活動を賛美しました。私はこの所信表明が平和憲法に対しての『宣戦布告』だと思っている。うやむやにできない。危険な自衛隊にさせない政策を求め続けていくことが必要です」といいます。

 住友氏は「自衛隊、警察を特別に称賛することは、国防軍や非常事態条項を創設する2012年に決めた自民党改憲草案の中身と合致しています。そこへの批判は受け付けないで、国会に情緒的な同意を求めているのが安倍首相です。さらに海外派兵をふくめ、憲法や議会の制限なしに“機能的”に行っていきたいという首相の政治的な意図が見えているのではないでしょうか」と指摘します。

所信表明から

 現場では、夜を徹して、そして、今この瞬間も、海上保安庁、警察、自衛隊の諸君が、任務に当たっています。極度の緊張感に耐えながら、強い責任感と誇りを持って、任務を全うする。その彼らに対し、今この場所から、心からの敬意を表そうではありませんか。


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