2016年9月17日(土)
2016焦点・論点
シリーズ戦争法強行1年で考える
弁護士・元最高裁判所判事 浜田邦夫さん
未来を変える決断と勇気を 共闘で得たもの発展させよう
浜田邦夫弁護士・元最高裁判所判事が安倍政権が進める「戦争をする国づくり」を、戦前の暗黒日本への逆コースと痛烈に批判する「闘争宣言」は本紙昨年10月8日付に掲載されました。戦争法1年の節目に同氏に安倍政権の改憲策動や今後の安倍政権とのたたかいについて聞きました。(若林明)
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―この1年について7月の参議院選挙の結果も含めてどう考えていますか。
「闘争宣言」の基本的な立場に全く変わりはありません。機会があればその立場で発言してきました。私に対し、「元最高裁判事なのだから」と批判する人もいました。しかし、元最高裁長官の三好達氏は改憲推進団体・日本会議の名誉会長です。ウルトラ右翼の活動をしていることに何も言わない方がおかしいと反論をしました。
昨年来、戦争法の全体について、私を含めていろいろな立場の人が反対し、市民の運動も広がりました。参院選ではその安倍政権の危険性を訴えて4野党が統一候補を立ててたたかい、東北地方などで勝利しました。
残念ながら野党が過半数を得るまではいかなかったけれど、安倍政権がやっていることはおかしい、戦争法制はおかしいと言う人の輪が広がりました。いままでのように役人や政治家に任せておいては、不安だと感じる人たちが増えました。
だからそれをもっと増やす地道な努力をするしかないと思います。戦争法反対の運動や野党共闘の取り組みを見ると、人間は運動の中で変わるとわかります。そういうチャンスをできるだけいろいろなレベルで広げていくことです。
安全安心と憲法は関連
―衆参両院の改憲勢力が3分の2の議席を占めましたが。
参院選での国民の投票行動をみても憲法の問題が、庶民の暮らしにどれだけ深く関連があるかということについての認識がまだ広がっていないと思います。戦後70年つづいた日本の「安全・安心な暮らし」と日本国憲法は、非常に密接に関連しています。
日本国憲法で定められている個人の自由や基本的人権の保障は、人類の歴史上の貴重な成果として一番大事なことです。そして自由や人権を支えるベース(基本)として平和が必要であるという平和主義があります。個人の暮らし、個人の行動の自由、それに社会の公平や正義を担保しているのが憲法なのです。その憲法のベースは戦争をしないという宣言です。
安倍政権が進めている戦争法などの政策は、それを放棄し、他国の戦争にまで自衛隊がいくということです。今の憲法の理念そのもの、平和主義だけでなく、基本的人権も含めて国民の普通の暮らしを基盤から破壊してしまうことになります。これに対し多くの国民がそれぞれの立場、それぞれの場所で暮らしの基盤を破壊されることについて自分の考えを表現する、そういうことが大事です。
個人の自由奪った戦前
憲法を変えようとしている人たちは、「日本の伝統」が大事だといいます。歴史を見るならば、戦前日本での、個人の暮らしよりも国家の利益を優先させるという社会システムがつくられた結果どうなったのか。あの悲惨な戦争と敗戦です。現実の人々の生活よりもありもしない伝統を優先して、昔の通り天皇を元首にし、国家に権力を集め、個人の自由を奪う戦前のシステムに変えればすべてうまくいくというのは、まったく虚構にすぎません。
改憲派の人たちは、どの条項でもいいから憲法を変えると言いますが、何か問題があるときに変えるべきであって、いいものを変える必要はありません。
例えば、50年連れ添っているような夫婦に対して、親類の者が、「最初の出会いのときに、間違った相手と見合いをして結婚したから」とその後仲良く暮らしていても、「離婚するべきだ」などと言ったらおかしいでしょう。
憲法でいえば、日本国憲法とともに70年間、国民は安心・安全な暮らしを維持してきました。それに言いがかりをつけて、「とにかく憲法を変えるべきだ」などという主張はばかげています。
変えるのは今しかない
―世論調査で安倍政権の支持率は過半数になっています。安倍政権を世論の力で包囲するために何が必要ですか。
安倍政権が支持を得ている理由の一つにメディアの問題があります。NHKをはじめ、特に公正な報道をすべき、全国ネットのメディアが、自民党関係者による非常に低いレベルの「恫(どう)喝」で委縮しています。戦前の日本は、治安維持法などいろいろな法律があり、それにもとづいて弾圧がありました。今は法律上の弾圧は一応ありません。しかし、一部マスメディアは自主規制という形で安倍政権に都合のいい報道をしています。言論・表現の自由が、大きく損なわれています。それが日本社会に閉塞(へいそく)感をもたらしています。
―安倍政権を打倒するために何が必要ですか。
未来を変えようとするには決断と勇気が必要です。「あの時にこうすればよかった」と後悔しないために、今勇気が必要です。「この投票が未来を変える」という言葉があります。未来を変えるのは今の投票だということです。勇気をもって行動する、自分の思いを表現する。あるべき未来、理念としての未来を変えるのは今しかないのです。
参院選挙の結果にがっかりしないで、市民との協力で獲得した成果、野党の選挙共闘で得られたもの、ママさんや若者の活動の広がり、そういうものを大事にして発展させるためにお互いに頑張ろうというのが私からのメッセージです。