2016年9月6日(火)
主張
パラリンピックへ
多様性と寛容 発信する大会に
聖火と熱気と興奮が、あの地に戻ってきます。
リオデジャネイロ・パラリンピックが7日(日本時間8日)に開幕します。約170カ国・地域の4300人を超える選手たちが12日間にわたり、その技と力を競います。
人間の限りない可能性へ
障害を抱える選手がみせる一つ一つのプレーには、人間の限りない可能性を感じます。アーチェリーでは足の指先で弓を固定し、口で矢を射る姿があります。両腕のない背泳ぎの選手が、手すりにかじりつきスタートする場面も目にしたことがあります。それぞれの選手たちのそこにいたる努力や苦労がしのばれ、思わず目頭が熱くなります。
大会には、卓球などでリオ五輪に出場した選手が参加します。陸上・男子走り幅跳びのドイツのマルクス・レーム選手は、現在の規定で五輪出場はかなわなかったものの、リオ五輪の金メダリストをしのぐ記録を持っています。障害者スポーツのレベルが大きく上がる中、健常者のスポーツとの融合が課題となりつつあります。
リオ五輪で話題になった難民選手団は、2人の選手が出場します。リオ五輪のテーマの「多様性」はパラリンピックにも引き継がれます。互いの違いを認め、尊重しあう精神は、障害者スポーツそのものの理念です。開会式では「障害者への不寛容をなくしたい」というメッセージも発せられます。日本では相模原市の障害者施設でその命が奪われ、社会的にも障害者否定の考えが波紋を広げました。大会自体がこれらに対する一つの答えを示してくれるはずです。
大会前は心配される情報が相次ぎました。開幕を2週間後に控えた段階で入場券が目標の1割ほどしか売れず、運営にも支障をきたす事態が伝えられました。立ち上がったのはリオの市民でした。その後、ソーシャルネットワーク上で呼びかけ合い、その売り上げは急速に上向きました。リオ市が運営費の補てんを決めるなどして、大会は軌道に乗りつつあります。
国家主導のドーピング違反やその隠蔽(いんぺい)により、ロシアは大会参加禁止となりました。禁止は2018年の平昌冬季大会にも及びます。国際パラリンピック委員会のフィリップ・クレーブン会長は「ドーピングがパラリンピックに入り込む余地はない」と語り、この問題で断固たる姿勢を示しています。
公平、公正さはスポーツの命ともいうべき理念です。選手同士が友情を育む上でも「偽り」は大きな障害です。この毅然(きぜん)さがパラリンピックの未来をよりよく切り開くことは疑いありません。
急がれる環境整備
障害者スポーツの置かれた現状は依然厳しいものがあります。大会出場経験者でつくる日本パラリンピアンズ協会の調査結果(8月)では、選手が競技をする上で年間の自己負担額は平均147万円に上ります。車いすで「体育館の床に傷がつく」など、代表選手でさえ施設利用を断られるといったケースが2割を超えていました。
4年後の東京大会に向け、障害者がいきいきと生きられる社会、障害者スポーツのよりよい環境の整備は、政治も含めた大きな課題です。リオのパラリンピックが、そこに向けた確かな一歩となることを期待します。