2016年8月31日(水)
2016焦点・論点
福祉用具 保険外しで介護は
国際医療福祉大学大学院教授 東畠弘子さん
生活の支援に役割大 負担増でなく継続を
安倍内閣は、介護ベッドや車いすなど介護保険の福祉用具貸与について、要介護2以下の保険給付外し(原則自己負担)をはじめ大幅な負担増を検討し、来年の通常国会に法案を提出する予定です。福祉用具が果たす役割と負担増の影響について、国際医療福祉大学大学院の東畠(ひがしはた)弘子教授に聞きました。(内藤真己子)
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―福祉用具の種類と役割には、どのようなものがありますか。
介護保険で貸与されている福祉用具は13種類で、高さの調整や背中を起こす機能のある電動ベッド、車いす、歩行器、手すりやスロープ、補助づえ、などがあります。
福祉用具は用具なので物流体制が整えられれば、どこでも供給が可能です。そこが訪問介護や通所介護と異なります。また導入すれば24時間利用でき、気兼ねもいりません。利用者にとっては「安心して使える使いやすいサービス」であり、この利用で生活が整う、トイレや入浴ができる、外出できるという、利用者の自立した生活の支援に大きな役割を果たしています。
―2000年の介護保険創設をきっかけに利用が広がりました。
介護保険では1割負担(2015年8月から一部2割負担)で利用でき、利用者の状態変化に応じ、用具の種類や機種を変更することができます。ケアマネジャーと相談し、福祉用具専門相談員がふさわしい用具を選び、計画を作って利用後も適切に使用されているか確認する仕組みが導入され、使いやすいものになりました。利用者は約180万人に上り、そのうち要介護2以下の方が約110万人を占めます。
調査で鮮明に
―介護する家族にとっても福祉用具はありがたい存在ですね。
介護保険でも、福祉用具貸与の方針には、利用者の自立の促進と「利用者を介護する者の負担の軽減」がうたわれており、家族の負担軽減は柱の一つです。
私は、福祉用具の利用と家族の介護負担について、日本福祉用具供給協会が行った調査の監修を務めました。
調査では、他の介護サービスを利用していない方を対象に、福祉用具の利用前と利用1カ月後、同3カ月後の状況を介護する家族に答えてもらいました。
「寝起きや離床動作への援助」など8項目の援助の度合いを、「自立」は0、「全面援助」を4と点数化して回答してもらいました。すると8項目の援助の度合いの合計は、利用前が6・4点だったのが3カ月後には5・2点に下がり、家族による援助の負担が軽減されていることがわかりました。(グラフ)
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また、「介護のために自分の時間が十分にとれないと思う」など「ザリット介護負担尺度」といわれる介護で感じる負担、22項目についても、負担感を5段階で点数化して調査しました。これも福祉用具の利用前には合計21・8点だったのが、3カ月後には19・7点に下がっていました。
調査対象は福祉用具だけを使っている人で、93%が要介護2以下の軽度の人でした。しかし「軽度」と言われる中でも、援助の度合い、負担感が、家族には何らかあったようです。それが福祉用具の利用で軽くなったというのは、福祉用具による介護負担の軽減効果と考えていいと思います。
とくに介護負担尺度では「将来への不安」「患者さんがあなたを頼っていると思う」といった心理的負担の軽減が利用後大きかった。ですから福祉用具を使って利用者のできることを増やすことの意義は、ご本人にとっても家族にとっても大きいです。それは高齢者が住み慣れた地域で暮らし続けることを提唱している国の方向性にも合っていると思います。
生活に支障が
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―政府は要介護2以下の福祉用具について「原則自己負担」など大幅な負担増を検討しています。実施されればどんな影響が出るでしょうか。
私が2008年に福祉用具を利用している約700人に行った調査では、7割超の人が「福祉用具を使いたい」と回答していました。その理由を聞くと「手すりを利用することで転倒しなくなった」(88歳男性、要支援2)とか、「車いすがなければ何もできないし、寝たきりになる」(80歳女性、要介護2)といった声です。つまり福祉用具を借りているから在宅で自立した生活が送れているのだという回答が大変多かったです。これが負担増によって利用できなくなるとすると、生活が立ち行かなくなると思います。
とくに要介護2の状態となると一概に「軽度」とは言えません。車いすを使って通院などをしている方もいるので、使えなくなると在宅生活が継続できるのでしょうか。また本人が「電動車いすで外に行けるぞ、なんとかやれるぞ」と思っているのに、負担の問題で「これは我慢しよう」となったとき、自宅にこもって行動の範囲が狭くなる。すると気持ちも体も衰え、重度化するのではないでしょうか。
また、ザリットの介護負担尺度にもあるように、軽度であっても一定の介護負担があり、家族は決して楽な状況ではないんですね。そうなると、福祉用具が利用できなくなることで家族の負担が重くなったときに、地域で暮らし続けられるのかと心配しています。
私個人としては、十分な負担能力がある方には、もっと負担していただいていいと思っています。しかし1割負担だからなんとか利用できているような経済状況の方が、「原則自己負担」(10割負担)できるのか。それは厳しいんじゃないでしょうか。また、年金がそれなりにあったとしても、ご夫婦ともに要介護状態になったとき、今以上に負担できるのでしょうか。
介護というのはいつまで続くか先が見えないものです。ですから一律に負担割合が増えていったら、将来に備えて利用を節約しようと考えても不思議はありません。
介護保険が始まって16年、「給付削減先にありき」ではなく、福祉用具貸与が果たしてきた役割をよく検証し、ぜひ、利用者の自立支援と介護負担を軽減するために、いまの仕組みを継続してほしいと思います。