2016年8月16日(火)
韓国・西大門刑務所歴史館
独裁政権時のねつ造「スパイ事件」展示
「苦痛の歴史」伝える
|
韓国のソウルにある西大門刑務所歴史館で14日、独裁政権がでっち上げた「北朝鮮スパイ事件」の真相を後世に伝えるための常設展示が始まりました。1970〜80年代に一連の事件で西大門刑務所(ソウル拘置所)に拘束・投獄された在日韓国人は、被害者支援団体によると160人。このうち27人の無罪が再審で確定しています。(面川誠)
展示室の名称は「在日同胞良心囚―苦難と希望の道」。最大15人まで収容したという約10平方メートルの房に、獄中での所持品や裁判関連資料などが展示されています。
現地からの報道によると、「在日同胞留学生スパイ団事件」で死刑判決を受けた李哲(イ・チョル)氏が展示開始に合わせて歴史館を訪問しました。李氏は高麗大学大学院に留学中だった1975年に韓国中央情報部(KCIA=現在の国家情報院)に連行され、激しい拷問の末に「北朝鮮の工作員」との自白を強要されました。
国家保安法違反などの罪で死刑判決が確定しますが、79年に減刑、88年に仮釈放され日本に戻りました。李氏は、独立運動家や民主化運動家が数多く投獄された西大門刑務所での獄中生活について、「植民地支配と南北分断の苦しみを背負った気持ちだった」と語ったことがあります。
98年2月、政治囚として死刑判決を受けたことのある金大中(キム・デジュン)氏が大統領に就任した後、弾圧事件再調査の動きが進展。2002年に就任した盧武鉉(ノ・ムヒョン)大統領の下で「真実・和解のための過去史整理委員会」が発足させ再調査を開始し、ほとんどの事件がでっち上げだったことを明らかにしました。
今回、展示室の設置は李氏の提案がきっかけで実現しました。李氏が数年前に歴史館を訪れた際、見学の学生と刑務所の歴史を説明する教師に会いました。「私もスパイにでっち上げられて、この刑務所にいたんですよ」と語りかけると、みな初めて聞く話に驚いていたといいます。
「このままでは苦痛の歴史が埋もれてしまう」と感じた李氏は、民主化運動を支援したカトリック団体や行政当局に働きかけ、展示室の実現にこぎつけました。
西大門刑務所 1908年、日本統監府の下で建設された刑務所。日本による植民地支配期には多くの独立運動家が投獄。45年に日本から解放され韓国が独立した後は、民主化運動家や南北統一運動家ら多くの政治囚が投獄。87年に閉鎖され、99年から西大門刑務所歴史館として一般公開されています。