2016年7月4日(月)
主張
ダッカでのテロ
市民巻き込む蛮行許されない
バングラデシュの首都ダッカで武装集団が飲食店を襲撃し、店内の客などを人質に取った事件は、軍の特殊部隊が突入して救出にあたったものの、日本人7人を含む20人が死亡する痛ましい結果となりました。日本人の犠牲者はすべて国際協力機構(JICA)の現地プロジェクトにかかわっていた人たちです。過激組織ISが犯行声明を発表していますが詳細は不明です。罪のない市民の命を奪った蛮行に強い怒りを禁じえません。犠牲者とご家族、関係者にお悔やみ申し上げるとともに、国際社会からテロをなくしていく決意を新たにするものです。
罪のない人たちが犠牲に
何の罪もない市民が一日の仕事を終え、飲食店で食事し、くつろいでいるさなかに、突然武装した集団に襲撃されて人質にされ、わけもわからないのに殺害されるなどというのは、身の毛もよだつような恐怖です。非道な行為を断じて許すことはできません。犠牲になった中には日本人のほかイタリア人などが含まれていますが、ほとんどすべてが客として訪れ、巻き込まれたものとみられます。
亡くなった7人と、負傷して救出された1人の日本人はすべて、現地のJICAのプロジェクトに建設コンサルタントなどとしてかかわっていた人たちです。年配者も女性もいます。バングラデシュは日本からの進出企業も多く、日本に働き口を求めたり、観光などで来たりする人も多い、かかわりが深い国です。そうした国で経済活動を行っていた日本人が、突然、野蛮な事件で犠牲になるところに、テロの恐怖があります。
事件発生直後、菅義偉官房長官が参院選応援のため首相官邸を離れ非難されていますが、事件の重大性に照らせば批判は当然です。
バングラデシュはイスラム教徒が約9割を占める国で、かつては比較的安全と言われていました。しかし最近はISなどを称する勢力がかかわるテロが起きています。ISがイスラム教の断食月(ラマダン)にあわせたテロを公言していたこともあり、外務省やJICAも警戒を呼び掛けていましたが、発生を防げませんでした。危機管理体制の検証が必要です。
国際的なテロの防止のためには国連安保理などでも繰り返し決議されているように、テロ組織への資金・人・武器の流れを断つこと、貧困や格差、民族的・宗教的差別など、テロの土壌となっている問題をなくすこと、シリアとイラクでの内戦・混乱状態を解消し、地域の平和と安定を図ること、難民・避難民への人道的支援を強化することなどが不可欠です。日本政府と国際社会は今回の事件からも教訓をくみ取り、テロ根絶に全力をあげるべきです。
戦争でテロはなくせない
歴史的に見ても、ISの台頭はアメリカなどによる2001年のアフガニスタン報復戦争、03年のイラク侵略戦争がつくりだしたものでした。戦争でテロはなくせません。テロと戦争の悪循環を生むだけです。テロを根絶するため、警察と司法でテロリストを追い詰め、非軍事の政治的・外交的努力を強めることこそが必要です。
海外で活動する日本人がテロに巻き込まれないためにも、日本政府が憲法9条という世界に比類のない平和の宝を生かし、知恵と力を尽くすことが問われています。