2016年6月26日(日)
問われた「EUとは何か」
英国民投票 尾を引く世論の二分
英国の欧州連合(EU)離脱を決めた23日の国民投票は、立場の違いを問わず、多くの英国民にとって「EUとは何か」との問いに答えを出す機会となりました。同時に、欧州各国で近年高まる反EU感情を如実に示すものとなりました。(ロンドン=島崎桂 写真も)
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勝利した離脱派の主張は、大きく二つの傾向に分かれていました。
一つは、EU各国からの移民流入に伴う雇用や賃金、財政などの悪化を懸念する立場です。こうした人々にとって、域内の移動の自由を保障するEUは「移民流入の元凶」であり、離脱による移民流入規制を最大の要求に掲げました。
「非民主的機構」
もう一つは、EUを「非民主的な官僚機構」とみなす立場です。
「EUにとどまる限り、国民がどれだけ望んでもEUの反対で実現できないことがある。これが主権国家の姿か」と語るのは、社会政策アナリストのスティーブ・ベッカムさん(55)。「離脱による経済的損失は大きいが、代わりに英国は健全な民主主義を取り戻した」と評します。
団体職員として働くイアン・パティソンさん(27)も、「EUは大企業の利益を代表する機関でしかない」「EUが(ギリシャやスペイン、ポルトガルなどに)課した緊縮政策で、どれだけの人が職を失ったか」と語気を強めました。
こうした離脱派の二面性は、欧州政治の現状にも重なります。
欧州各国では近年、欧州統合を推進し、EU政策を主導してきた中道右派・中道左派政党の支持離れが加速しています。こうした中、一方では移民排斥とEU離脱を掲げるフランス国民戦線やオーストリア自由党など極右政党が台頭。他方ではEU主導の緊縮政策に反対するギリシャの急進左派連合(SYRIZA)やスペインの新党ポデモスが支持を伸ばしました。
雇用問題に警鐘
EUに不満や疑念を持つ離脱派に対し、残留派にとってEUは「労働者の権利の擁護者」や「経済成長の基礎」として映ります。
こうした人々は投票キャンペーンの中、労働時間制限や休暇制度、各種社会保障の拡充に寄与したEUの成果を強調。同時に、EU離脱に伴う労働者の権利喪失や経済悪化に警鐘を鳴らしました。
とりわけ、残留支持が多数を占めた若年層にとってEUは「学業や雇用の機会を広げる場」であり、多くの学生・若年労働者が「(離脱で)人生の選択肢が減る」「欧州の人たちが離れていくように感じる」など「失望」を口にしました。
残留か離脱か、二者択一の中で先鋭化した対立は、残留派のジョー・コックス労働党議員の殺害(16日)という悲劇を生みました。離脱派を主導したジョンソン前ロンドン市長の自宅前では24日、残留派市民が同氏を取り囲む事態が発生。英首相官邸前では同日、投票権のない高校生らが抗議デモを行いました。
二分された世論の対立は、今後も尾を引きそうです。