2016年5月17日(火)
米国に租税回避“州”
同一住所に25万社も
“国際的努力に穴”と批判
【ワシントン=島田峰隆】「パナマ文書」の公表で世界の多国籍企業や富裕層によるタックスヘイブン(租税回避地)を使った課税逃れが問題になるなか、米国のいくつかの州が事実上の租税回避地として利用されていることに批判の声が出ています。
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租税回避地の問題を追及する民間団体「タックス・ジャスティス・ネットワーク」の報告書(2015年)によると、米国のデラウェア、ネバダ、ワイオミングなどの州は、州法により税率が極端に低いか無税の租税回避地となっており、実体のないペーパー会社が集中しています。報告書は「エリートが略奪してきた富の避難場所」として利用されていると指摘しています。
特にデラウェア州が深刻です。ワシントン・ポスト紙は4月初め、この数年間に同州の1カ所の同じ住所に世界から25万社以上が登録されてきたと報じました。背景には、企業の設立や金融口座の開設の際に企業の実質的な所有者や経営者の身元確認を求めていないことがあるとし、「米国のいくつかの州では、会社設立は図書館の利用カードをつくるより容易だ」という専門家の声を伝えています。
ロンドンで12日に開かれた「汚職防止サミット」では、会議を主宰したキャメロン英首相がデラウェア州などの実態を指摘し、「(租税回避地を防ぐ)基準をみんなで一斉に引き上げれば、より効果的なものになる。私もそうするし、米国もそうするべきだ」と対策を促しました。
米政府は5日、課税逃れや資金洗浄の取り締まり強化策の一部として、金融機関に顧客企業の実質的な所有者や経営者の身元確認を求める法整備を議会に要請しました。同サミットに出席したケリー米国務長官は「米国の50州すべてが、各州で登録されている企業について透明性を高める法律をつくることになるだろう」と語りました。ただ多国籍企業の支援を受ける団体などから反発もあり、実現するかどうかは不透明です。
「タックス・ジャスティス・ネットワーク」の報告書は「米国の姿勢が課税逃れ、資金洗浄、金融犯罪を取り締まる国際的な努力に大きな穴を開ける危険がある」と批判しています。