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2016年3月2日(水)

認知症事故 家族の賠償責任認めず

最高裁がJR請求を棄却

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 認知症の男性=当時(91)=が一人で外出し、列車にはねられ死亡した事故で、JR東海が遺族に損害賠償を求めた訴訟の判決が1日、最高裁第3小法廷(岡部喜代子裁判長)でありました。最高裁は男性の妻(93)と長男(65)の賠償責任を認めず、JR東海の請求を棄却する判決を言い渡しました。一、二審を覆し、遺族側の逆転全面勝訴が確定しました。


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(写真)JR東海認知症事故訴訟の最高裁判決をうけて記者会見する「認知症の人と家族の会」の高見国生代表理事(右)と田部井康夫副代表理事=1日、東京・霞が関の司法記者クラブ

 賠償責任を認めないのは、裁判官5人全員一致の意見。

 第3小法廷は監督義務者について「同居する配偶者だからといって、直ちに当たるわけではない」と初判断。「認知症の人との関係性や、介護の実態などを総合的に考慮して判断すべきだ」との基準も初めて示しました。

 判決後、記者会見した遺族側代理人は、「遺族側の上告理由を全面的に取り入れたすばらしい、画期的判決」と評価。「認知症の人と家族の会」も記者会見し、高見国生代表理事は、「本当にうれしい、よかった!の一言です」と涙声で話しました。

 事故は2007年12月、愛知県大府市のJR東海道線の駅構内で発生。男性(要介護4)は、要介護1の妻が数分まどろんだ間に外出していました。JR東海は、家族が注意を怠ったとして振り替え輸送費などの損害約720万円の賠償を妻や横浜市在住の長男(65)らに求めました。

 民法は、認知症などで責任能力がない人の賠償責任は「法定の監督義務者」が負うと規定しています。

 岡部裁判長は、二審の名古屋高裁判決が民法の「夫婦の協力扶助義務」規定(752条)を根拠に妻を「法定の監督義務者」として賠償を求めた点について、「認知症の人と同居する配偶者だからといって、ただちに監督責任があるとはいえない」と明確に覆しました。

 長男についても20年以上別居しており、監督義務者にあたらないとしました。

解説

介護の実情を踏まえ今後の羅針盤になる

 最高裁は、認知症の人を介護する家族の民法上の監督責任について総合的に考慮すべきだとして、この事故で賠償責任を認めませんでした。

 認知症の人は500万人を超え、25年には700万人に上ると推定されています。そうしたなか、家族に事故の賠償責任を負わせた一、二審判決が与えた衝撃は大きく、介護家族から「これでは閉じ込めるしかなく、介護が成り立たない」と悲痛な声が上がっていました。

 認知症本人らでつくる会は、「外出を過剰に危険視して監視や制止をしないで。それは生きる力や意欲を著しくむしばみ、社会の偏見を強める」と訴え、介護・医療関係者や専門家らも含め、介護現場の実情を踏まえ判決の見直しを求める声が高まっていました。

 判決は、そうした世論にこたえたもの。認知症になっても社会の一員として暮らせる今後の羅針盤となる大きな意義を持つものです。

 (西口友紀恵)


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