2015年11月20日(金)
パリ同時テロ 欧米で高まる「反難民」
国連・EU・メディアから懸念
13日に発生したパリ同時テロでは、実行犯の1人がシリア難民に紛れて欧州入りしたことがほぼ確実視されています。急増する移民・難民への対応が主要課題となっている欧米諸国では、テロリスト流入の恐れから、難民受け入れ停止を求める声が急速に高まる一方、「反難民」はテロリストを利すると批判する論調もあります。 (パリ=島崎桂、ワシントン=島田峰隆)
「本物の難民申請者とパリを攻撃した容疑者を同等に扱うべきではない」
欧州連合(EU)のユンケル欧州委員長は15日、主要20カ国・地域(G20)首脳会議が開かれたトルコでこう語り、EU各国が分担して難民を受け入れる方針に変わりはないと述べました。
これに先立ち、ポーランドのシマンスキ欧州担当相は14日、「パリでの悲劇を考慮すると、難民受け入れを尊重する政治的な可能性はない」として、前政権の難民受け入れ方針を撤回。難民受け入れに消極的なスロバキアのフィツォ首相やハンガリーのオルバン首相もEUの方針に従わない姿勢を示しました。
難民流入に伴うテロへの懸念は、市民の間にも広がっています。
英紙タイムズが18日公表した世論調査では、シリア難民の受け入れを「減らすべき」または「全く受け入れるべきではない」が49%となり、9月の同様の調査から22ポイント増加。「より多くの難民を迎えるべきだ」との回答は、36%から20%に急減しました。
オランド仏大統領は16日、テロを起こす可能性のある二重国籍者のフランス国籍はく奪や、危険とみられる外国人の早急な国外退去に向けた法改正を要請。キャメロン英首相は、英国の情報機関職員の増員や空港警備予算の増額を通じた国境管理の強化を表明しました。
これに対し国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の報道官は17日、「難民を(テロによる)悲劇の第2の被害者にすべきではない」と述べ、難民阻止に動く一部政府への懸念を表明しました。
米国でも20以上の州がシリア難民の受け入れ拒否や支援の中止を表明するなどの動きが強まり、それを批判する論調もあります。
17日付の米紙ニューヨーク・タイムズは社説で「こうした対応は間違いだ。難民とテロリストの混同は道徳的に受け入れられない」と強調。「イスラム教徒は本質的に危険だというばかげた議論で難民を拒否することは、ISの宣伝を利することになる。彼らは排除や軽蔑を受けたと感じる人を取り込んできた」と指摘しました。
17日付の米紙ワシントン・ポストで、コラムニストのマイケル・ガーソン氏はISの目標が「イスラム世界と西側諸国の文明の争いを助長すること」だと指摘。「米国の政治家がイスラムを問題視し、イスラム教徒を非難するなら、ISの主張を支援することになる」と論じました。