2015年10月20日(火)
主張
国連の新開発目標
先進国は歴史的責任を果たせ
2030年までに極貧や飢餓を根絶する―。国連総会にあわせ9月末に開かれた国連の首脳会合は、国際社会の新たな共通の行動計画となる最終文書「持続可能な開発目標(SDGs)」を全会一致で採択しました。先進国と途上国の貧富の格差を是正し、豊かで公正な世界をつくることを、新たにめざす目標です。先進国には率先して取り組む責任があります。
誰も置き去りにしない
新目標であるSDGsは、15年末までに極貧や飢餓の半減をめざした2000年の「ミレニアム開発目標(MDGs)」の成果を土台にして、深化させるもので17目標169項目を掲げました。MDGsの取り組みで、極貧下で暮らす人は1990年の19億人から半減しました。しかし、中国や中南米で状況が改善される一方、サハラ以南アフリカや南アジアなど、依然として8億を超える人々が極貧と飢餓にあえいでいます。新目標は、「誰も置き去りにしないことを誓う」とのべ、MDGsで未達成だった、これら「最も脆(ぜい)弱(じゃく)な人」を極貧などから救うことを呼びかけ、先進国の責任を指摘しました。
気候変動に起因する異常気象へ緊急対策を講じる必要も強調されました。海面上昇やサイクロンの頻発、砂漠化や干ばつなどで、持続可能な農業の存続が危ぶまれています。73億人の世界人口が2050年には97億人となるなか、途上国の人口増に世界の食料生産が追い付かなければ、さらに多くの人が飢餓にさらされるからです。
開発の原資として、新目標は先進国の政府開発援助(ODA)を国民総所得(GNI)の0・7%にするようあらためて求めました。
いま世界の軍事支出は総額1兆7760億ドル(約214兆円)に上ります。国連の首脳会合では、この巨額な軍事費の削減を求め各国が発言しました。潘(パン)基(ギ)文(ムン)国連事務総長も、「人々を守るためよりも破壊するための資金の方が得やすいのは、どうしたことなのか」と不満を示しました。持続可能な開発にとって、戦争や紛争は最大の障害です。
国際金融機関による支配、無秩序な投機、横暴に振る舞う多国籍企業への対策など、公正な経済秩序をめざす取り組みも重要です。首脳会合では、金融取引税の導入、タックスヘイブン(租税回避地)対策など投機的資金への課税強化や債権者への批判が相次ぎました。
「持続可能な開発目標」を達成し、途上国で繰り広げられる「開発」に名を借りた経済的収奪を是正し、「平和で公正な世界」を達成するために、先進国が歴史的な責任と向き合い、率先して行動することが重要です。
内実問われる日本の支援
日本のODAは、1997年度をピーク(1兆1687億円)に減少を続け、2015年度でGNI比0・18%(5422億円)まで落ち込んでいます。
安倍晋三首相は、首脳会合で「質の高いインフラへの投資を世界各地で推進する」とのべました。しかし、この中身は経済インフラ中心で、貧しい人々の命や暮らしを支える基礎的な保健や教育分野への投資はごくわずかです。現地に進出する大企業の活動を支える大型インフラへの偏重を改め、相手国の主体性を尊重した、その国の将来的な自立につながる支援にこそ軸足を移すべきです。