2015年9月7日(月)
タイ 新憲法案を否決
軍政、権力維持に固執
民政移管、さらに遠のく
軍政下のタイで新憲法草案の承認権を持つ国家改革評議会(NRC)は6日、新憲法の最終案を賛成105、反対135、棄権7で否決しました。新憲法は軍の政治介入を招くと批判する委員と、軍の権力維持が確実でないとする軍政中枢の意向を受けた委員が、全く逆の立場から反対した結果。軍政と政党・民主化勢力の対立が先鋭になっています。(面川誠)
新憲法案の否決により来年予定されていた国民投票と総選挙は延期されました。憲法起草作業は振り出しに戻り、2017年初めと見込まれていた民政移管は遠のきました。
憲法起草委員会がまとめた最終案は、軍最高幹部ら23人で構成する「国家戦略改革和解委員会」が政治危機の際に内閣や国会を超越した立法権と行政権を行使できるとするもの。各メディア、政党、民主化勢力だけでなく、軍政が選出したNRC内部からも「非民主的」と批判が出ていました。
政界・教育界・学界出身のNRC委員の大部分は、「軍の政治関与の余地を残す」との立場から最終案に反対。学界出身の委員は現地紙に、「こんな草案を国民投票に掛けることは時間と予算の無駄だ」と語りました。
これとは逆に軍政中枢も、軍の政治関与が確実でないという理由から最終案に不満を抱きました。
8月に発表された最初の案は、最終案よりさらに非民主的な内容でした。議院内閣制にもかかわらず、軍人首相の就任を念頭に下院議員以外の首相選出を可能にしたほか、上院議員を全員任命制とするなど、国民の政治参加と政党政治を可能な限り弱めようとするものでした。
こうした内容への批判が高まったことを受け、憲法起草委は下院議員以外の首相選出には「議会の3分の2以上の賛成が必要」としたほか、上院議員の3分の1強を公選議員にするなど一定の修正を加えました。
現地メディアによると、昨年5月のクーデターを主導したプラユット暫定首相(前陸軍司令官)らは、最終案では軍の政治関与が不十分だと判断。その意向を受けた軍出身のNRC委員が反対票を投じるよう根回しを進めたといいます。
最終案の否決に至る経緯は、国民の政治参加と政党政治による議会制民主主義を敵視し、権力維持に固執する軍政中枢の姿勢をいっそう際立たせるものとなりました。