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2015年9月6日(日)

審議3カ月 廃案しかない戦争法案

根拠崩れ 危険鮮明に

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 戦争法案の廃案をめざすたたかいは、「8・30大行動」で12万人が国会を包囲するなど、歴史的な局面に発展しています。国会では政府側が法案の根幹部分についてさえまともに答弁できず、審議中断が参院だけで95回(4日時点)に及んでいます。政府・与党は27日の会期末を前に、18日までの採決を狙っていますが、5月26日の審議入り以来、3カ月あまりで法案の危険性とボロボロぶりが浮き彫りになっています。もはや廃案しかありません。


米軍への戦争支援

地理的な制約無くし活動内容も無制限に

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(写真)(右)党首討論に立つ志位和夫委員長と(左)安倍晋三首相=6月17日、参院第1委員会室

 米軍に対する海外での戦争支援―兵站(へいたん)活動は戦争法案の核心部分です。法案は、従来の海外派兵法にあった「非戦闘地域」という歯止めをはずし、自衛隊がこれまで「戦闘地域」とされてきた場所まで行って、弾薬の補給、武器の輸送などといった兵站を行う仕組みです。

■「戦闘地域」に

 衆院の論戦では、地理的制約の撤廃が大問題となりました。日本共産党の志位和夫委員長は「『戦闘地域』まで行けば相手から攻撃される」と追及。安倍晋三首相は「(攻撃される)可能性がないと申し上げたことはない」「自己保存型の武器使用はする」と答弁し、「自衛隊が武器の使用をすれば、相手はさらに攻撃し、まさに戦闘することになる」(志位氏)ことが鮮明になりました。(5月27日、衆院安保法制特別委員会)

 穀田恵二議員は、陸上自衛隊のイラク派兵に関する内部文書(「イラク復興支援活動行動史」)を明らかにし、派遣部隊が敵に連続射撃を加えて相手の行動を阻止する「制圧射撃」訓練を行い、隊員には「危ないと思ったら撃て」との指導が徹底されていたことも判明しました。まさに、戦闘寸前だったのです。

 自衛隊のイラク派兵決定時の内閣官房副長官補だった柳沢協二氏は「イラク以上のことをやれば、必ず戦死者が出る」と警告しています。(7月1日、衆院安保特・参考人質疑)

■「概念はない」

図:戦争法案の主な内容

 もともと兵站活動は、「戦闘と一体不可分」(米海兵隊教本)です。政府はそれを「後方支援」と言い換え、「他国の武力行使と一体化しない」から憲法違反の「武力行使」にあたらないと主張してきました。

 しかし、6月17日の党首討論で、志位氏が「『武力行使と一体でない後方支援』という国際法上の概念が存在するのか」と追及したのに対し、首相は「国際法上、そういう概念はない」と認めざるを得ませんでした。

 政府は地理的制約の根拠を追及されると、苦し紛れに「戦闘行為が発生しないと見込まれる場所を指定し後方支援を行う」と弁明しました。志位氏は、兵站が国際法上も軍事攻撃の対象となることや、法案には一言も「見込まれる場所」などと書いていないことを指摘しました。(5月27日、衆院安保特)

■核兵器も可能

 参院でさらに明らかになった問題は、この兵站活動の内容にも制限がないことです。

 日本共産党の小池晃議員は、戦争法案で米軍のミサイルや戦車など、あらゆる武器・弾薬が輸送できることになると指摘(7月29日、参院安保特)。中谷元・防衛相は「除外した規定はない」と明言しました。

 8月3日には、井上哲士議員が、非人道兵器とされるクラスター爆弾や劣化ウラン弾の輸送も排除されないことをあげ、中谷防衛相もこれを認めました。中谷防衛相は同5日には、民主党の白眞勲議員に対し、核兵器や毒ガスなどの大量破壊兵器も法理上は輸送可能との見解を示しました。

 しかも、この問題では、中谷防衛相の“虚偽答弁”も浮上しました。劣化ウラン弾について「それは当然運ばないと相手先と協議している」(8月11日)としていたのに、実は「個別に劣化ウラン弾を協議したことはない」(9月2日)と述べ、11日の答弁を撤回したのです。

 このほか、小池氏の追及で、米軍の対潜水艦作戦に対する洋上給油を想定していることも明らかになるなど、法文上も実態上もまさに無制限であることが浮き彫りになりました。(7月29日)

集団的自衛権

米の先制攻撃に参加も立法事実も崩壊

 戦争法案は、憲法上認められる武力行使は「我が国に対する武力攻撃」の場合に限るとしていた従来の憲法解釈を百八十度転換。日本がどこからも攻撃されていないのに、集団的自衛権を発動して、米国とともに海外で武力行使するという大問題をはらんでいます。

■経緯に反する

 6月4日の衆院憲法審査会では、参考人の3人の憲法学者がそろって「安保関連法案は憲法違反」と表明し、政府・与党に衝撃を与えました。

 政府があわてて出した、法案の「合憲性」「論理的整合性」に関する根拠も崩壊しました。

 一つは、1959年の砂川事件最高裁判決です。しかし、これは憲法9条の下での米軍駐留が認められるかどうかについての判決です。日本の集団的自衛権などまったく争点になっていないことは内閣法制局も認めました。

 もう一つは、72年の政府見解です。しかし、これも集団的自衛権の行使が憲法上、許されないと結論付けたものです。安倍内閣はその結論部分だけを「許される」と変えて合憲の“根拠”としたのです。これに対して宮崎礼壹(れいいち)元内閣法制局長官は「(同見解から)集団的自衛権の限定的容認の余地を読み取ろうというのは、前後の圧倒的な経緯に明らかに反します」と断言しました。(6月22日、衆院安保特・参考人質疑)

■無限定の恐れ

 衆院の論戦では、米国の先制攻撃戦争への日本の参戦が鋭く問われました。戦争法案では、集団的自衛権の発動要件とされる「武力行使の新3要件」(別項)を満たしているかどうかの判断が時の政権の裁量にまかされており、無限定に広がる恐れがあるからです。

 志位氏は5月28日の衆院安保特で、「米国が先制攻撃の戦争を行った場合でも、新3要件を満たしていると判断すれば、集団的自衛権を発動するのか」と質問。安倍首相は「違法な武力行使をした国を支援することはない」と答弁しましたが、志位氏の追及に、「米国の武力行使に(一度も)反対したことはない」と認めました。志位氏は「米国が先制攻撃の戦争に乗り出しても違法な戦争と批判できず、言われるままに集団的自衛権を発動することは明瞭だ」と指摘しました。

 政府の裁量次第という点では、民主党・大塚耕平議員に対し、首相は米国を攻撃する第三国が日本を攻撃する意思を表明していなくても、意思を「推測」して参戦可能との考えまで示しました。(7月28日、参院安保特)

■答弁が不能に

 安倍政権が「72年見解」の「結論」部分だけを変えて集団的自衛権の行使を「合憲」とした最大の口実は、「安全保障環境の根本的変容」でした。

 しかし、衆院で6月10日、宮本徹議員が「他国に対する武力攻撃で安保法案のような『存立危機事態』に陥った国が一つでもあるか」と追及したのに対し、岸田文雄外相は答弁不能になり、1週間後「実例をあげるのは難しい」と答えました。

 参院では、政府があげた集団的自衛権行使の事例が総崩れしました。まず、イランを想定した「ホルムズ海峡の機雷掃海」です。7月14日にイランと欧米6カ国との核合意が結ばれ、イランによる同海峡の機雷封鎖の非現実性がいっそう明らかになったからです。首相自身、7月27日の参院本会議で「そもそも特定の国(による封鎖)がホルムズ海峡に機雷を敷設することを想定しているわけではない」と述べ、以降「ホルムズ海峡」という地名を挙げられなくなりました。

 「日本人の命を守る」ためとして、集団的自衛権行使容認の最大の口実としてきた「邦人輸送中の米艦防護」の事例も、中谷元・防衛相が「日本人が乗っていることは絶対条件ではない」と答弁し、立法事実(法案の必要性)を覆しました。(8月26日、参院安保特)

PKO変質

ISAF型、南スーダン「殺す危険」現実に

 戦争法案では、国連平和維持活動(PKO)協力法を変質させ、自衛隊員が戦乱の地で住民に銃を向けて「殺す」リスクが高まることも明らかになりました。

 法案にもとづくPKO法改定では、現行法にはない(1)国連が統括しない人道復興支援や安全確保活動への参加(2)治安活動と駆けつけ警護(3)「妨害排除」など任務遂行の武器使用―を可能にしています。

■参加否定せず

 衆院では、アフガニスタン戦争(2001年〜)でのISAF(国際治安支援部隊)のような、国連が統括しない活動への参加が問題になりました。

 5月28日の衆院安保特で、志位氏が「ISAFのような活動参加が可能になるのか」とただしたのに対し、安倍首相は「掃討作戦のような活動は行わない」というだけで、参加は否定しませんでした。

 志位氏は、ISAFは米軍主導の「対テロ」掃討作戦と混然一体になり、3500人の戦死者を出すとともに、多くの住民を殺傷したと指摘しました。

 ISAFは昨年末に終了しましたが、その任務を引き継ぐRS(確固たる支援)任務が継続しており、約40カ国が参加しています。米国から参加を要請されたら、日本が断ることは困難です。

■戦闘に「加勢」

 さらに、8月11日の安保特で小池氏が暴露した自衛隊統幕文書により、南スーダンPKOに派兵される部隊が、来年3月から法案に基づき、「宿営地の共同防衛」や「駆けつけ警護」などを行うことが明らかになりました。これは、同じPKOに参加する他国部隊の戦闘に「加勢」するもの。自衛隊が海外で戦闘を行う最も現実的な危険となります。

 PKOを統率した経験もある伊勢崎賢治・東京外語大大学院教授は7月1日の衆院安保特・参考人質疑でこう警告しました。「現在のPKOは紛争から逃れる住民の保護を優先するが、自衛隊が保護した住民の中に武装勢力が紛れていても、住民と戦闘員の区別がつかない。自衛隊員が非戦闘員の住民を誤射する場合がある」

武力行使の新3要件

 (1)我が国に対する武力攻撃が発生したこと、又は我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある場合

 (2)これを排除するために、他に適当な手段がないとき

 (3)必要最小限度の実力行使をすること

武器等防護

日米共同部隊化の危険

 法案審議の中で危険性がクローズアップされているのが、「武器等防護」です。

 自衛隊が自分たちの武器・弾薬などを防護するために武器使用できるとの現在の規定(自衛隊法95条2項)を、米軍など他国軍を「防護」できるように改定しようというものです。

 改定により、地理的な制約はなくなり、南シナ海を含む地球上のどこでも「防護」が可能となります。日米共同演習時など「平時」でも可能です。しかも、武器使用の判断は現場指揮官が行うという、文民統制上の問題もあります。

 「武器等」とは何か。8月25日の参院安保特で、次のようなやりとりがありました。

 民主党・蓮舫議員 (防護する武器に)化学兵器、ミサイル、ステルス戦闘機など全ての戦闘機、原子力空母も入るのか。

 中谷元・防衛相 「武器等」としているので、それらも可能だ。

 蓮舫議員 自衛隊が使える武器とは何か。

 防衛相 自衛隊が保有している武器だ。

 つまり、ステルス戦闘機や原子力空母などを含む「武器等」の「防護」と称して、地球上どこでも、米軍への攻撃に対して反撃できるのです。

 政府は、「日本の存立危機」など「新3要件」に該当しない「フルサイズ(他国防衛)の集団的自衛権」は行使しないとしています。しかし、「武器等防護」では、「存立危機事態」を認定しなくても、集団的自衛権の行使に近い行動が可能になります。「集団的自衛権の抜け道であり、裏口入学だ」(8月25日、参院安保特)との指摘が出ています。

 さらに、参院で日本共産党の小池晃議員が暴露した自衛隊統幕内部文書では、「アセット(武器等)防護」に関連して「ROE(交戦規則)の策定」が明記されています。中谷防衛相は8月21日の参院安保特で、ROE策定を否定しませんでした。ROEとは、自衛隊がどのような場面でどのように「迎撃」するかという手順を定めたもの。当然、米軍の基準に合わせることになります。

 米軍と自衛隊が「平時」から共同部隊化し、しかも事実上、米軍の指示で「撃つ」危険があります。


内部文書は語る

究極の対米従属法案

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(上)自衛隊統合幕僚監部の内部文書(拡大図)
(下)統合幕僚長訪米時の会談結果概(拡大図)

 「戦争を起こさないための法案だ」。政府は戦争法案についてこう説明します。しかし、審議すればするほど、米国が起こす戦争にいつでも、世界中どこでも「切れ目なく」支援する、究極の対米従属法案としての本質が顕著になってきました。

 それをはっきりと示したのが、日本共産党が参院安保特で暴露した二つの内部文書です。

 小池晃議員が8月11日に暴露した自衛隊内部文書は、国会審議開始前の5月下旬に作成されたにもかかわらず、法案の「8月成立」を前提に統合幕僚監部が部隊の運用計画を策定していたことを明らかにしました。しかも同文書は、4月27日に合意された新ガイドライン(日米軍事協力の指針)には、戦争法案が成立しないと実行できない項目が多数含まれているとしています。さらに、ガイドラインに明記された「同盟調整メカニズム」には「軍軍間の調整所」を設置することが検討されていることも判明しました。

 新ガイドラインは、従来の「日本周辺」といった地理的な制約を外し、「日米同盟のグローバル(地球規模)な性質」を強調。文字通り、自衛隊を地球規模の米軍の戦争に組み込むための“戦争マニュアル”です。法案は、新ガイドラインの全面的な実行法にほかなりません。

 さらに、9月2日に仁比聡平議員が明らかにした内部文書は、自衛隊トップの河野(かわの)克俊統合幕僚長が昨年12月の訪米時に、米軍幹部に対して戦争法案の今年夏までの成立を表明していたことや、昨年11月の沖縄県知事選の結果を無視して「安倍政権は辺野古新基地を強力に推進する」などと対米公約していたことを暴露。「制服組の大暴走」だとして、大問題になっています。

相次ぐ暴言

反民主主義むきだし

 戦争法案の提出以降、政府・自民党の暴言が続いています。

 「どうでもいいじゃん、そんなこと」(安倍晋三首相、8月21日の参院安保法制特別委員会)。防衛相答弁の整合性をただした民主党の蓮舫議員に対し自席からヤジ。今国会での“首相ヤジ”はこれで2回目です。

 「憲法学者は9条2項の字面に拘泥(こうでい)する」(高村正彦自民党副総裁、6月5日)、「法的安定性は関係ない」(礒崎陽輔首相補佐官、7月26日の講演)。憲法学者の圧倒的多数が戦争法案を「違憲」と断じたことに対しての暴言も相次いでいます。

 「沖縄の二つの新聞はつぶさないといけない」(安倍政権でNHKの経営委員に登用された作家の百田尚樹氏、6月25日の自民党内の会合)。同氏はその後も言論弾圧をあおっています。

 「彼ら彼女らの主張は『だって戦争に行きたくないじゃん』という自分中心、極端な利己的考え」(武藤貴也衆院議員、同氏のツイッター7月30日付)。戦争法案反対の声を上げ続けている学生らを誹謗(ひぼう)した同氏は、出資金疑惑で批判を浴び、自民党を離党しました。

 これらの暴言に共通するのは、客観性や実証性を無視して自分たちの議論は正しいとし、国民世論に耳を貸さないむきだしの反民主主義の態度です。


戦争法案の国会審議をめぐる主要経過

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(写真)写真1

5月14日 安倍内閣が戦争法案を閣議決定

  15日 戦争法案を国会提出、中谷防衛相が自衛隊に法案の事前検討を指示

  26日 衆院本会議で審議開始、自衛隊幹部がテレビ会議で法案成立後の部隊運用計画を議論

  27日 委員会審議が開始、志位委員長が連続質問(〜28日)

  28日 首相が審議中「早く質問しろよ」とヤジ

6月4日 憲法審査会で憲法学者3氏全員が法案を「違憲」と批判(写真1

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(写真)写真2

  9日 政府が「違憲」論の高まりを受け統一見解提出

  17日 志位委員長と首相が今国会2回目の党首討論

  22日 自公が6月24日までの会期を9月27日まで戦後最長の延長強行、元法制局長官2氏が参考人質疑で「違憲」「逸脱」と批判

  25日 百田尚樹氏招いた自民党内会合で言論弾圧・沖縄侮辱発言相次ぐ

7月6日 沖縄・埼玉の地方参考人会で反対と慎重審議の声相次ぐ

  10日 5野党党首が強引な採決反対で一致、共産党がイラク派兵の「行動史」全容を暴露

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(写真)写真3

  15日 自公単独で委員会の採決強行(写真2

  16日 自公が法案の衆院通過を強行

  26日 礒崎首相補佐官が講演で「法的安定性関係ない」と暴言

  27日 参院本会議で審議開始

8月3日 礒崎首相補佐官を国会招致、辞任は拒否

  6日 広島の被爆者から首相に法案撤回の声相次ぐ

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(写真)写真4

  9日 長崎の平和式典でも法案に怒りの声があがる

  11日 共産党が法案成立を前提にした自衛隊運用計画の内部文書を暴露し、途中散会(写真3

  17日 防衛省が法案成立前提の内部文書の作成を認める

  21日 首相が審議中に「まあいいじゃん」とヤジ、内部文書は「全く問題ない」と開き直り

  30日 国会周辺で12万人参加の最大規模デモ(写真4)

 9月2日 共産党が昨年末の統幕長と米軍幹部らとの会談概要を記した内部文書を暴露

  4日 野党7党・会派の党首が強引な採決阻止で一致


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