2015年8月18日(火)
黒人投票権守れ
法制定50年 “骨抜き”狙う動きに対抗
米1400キロ行進
米国で、選挙での人種差別を禁じる投票権法が制定されて50年。同法の擁護や黒人差別の解消を求めて、今月1日から南部アラバマ州セルマから首都ワシントンを目指すデモ行進が行われています。「正義を求めるアメリカの旅」と名付けられた行進は、公民権運動団体「全米黒人地位向上協会」(NAACP)が主催し、労働組合や人権団体が協力しています。(ワシントン=島田峰隆)
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デモ行進は50年前、投票権法制定につながったデモ行進が始まったセルマのエドモンド・ペータス橋を1日に出発、9月16日にワシントンで終結集会を開く予定です。約860マイル(約1384キロ)の道のりです。
今回、デモ行進が組織された背景には、黒人差別を封じた規定を骨抜きにし、時代を逆行させようとする策動が目立ち始めていることがあります。
米国では1960年代、人種差別に抗議し憲法が保障する権利の保護を求める運動が発展。64年には公民権法が成立し、黒人の参政権が保障されました。
米国では選挙で投票するには有権者登録が必要です。しかし南部州では公民権法の成立後も、白人側が恣意(しい)的に黒人の有権者登録や投票行為を妨害し続けました。
それに対しアラバマ州では65年3月、黒人の有権者登録を保障する法律を求めて、セルマから州都モンゴメリーまでのデモ行進が行われました。妨害をはねのけ、出発当初数千人だったデモ隊は到着時には2万人を超えるまでに膨れ上がりました。こうしたたたかいを経て、同年8月、投票権法が成立しました。
その結果、アラバマ州の黒人有権者の登録率は64年の19%から69年には61%に上昇するなど、南部州では軒並み黒人の登録率が上昇。連邦や州の議会で黒人議員が増えることになりました。
ところがこれに水を差したのが、2013年6月の最高裁の判断です。投票権法は、過去に黒人の有権者登録を妨害していた南部州などに対し、選挙制度を変える際に連邦政府による事前審査を義務付けています。最高裁は同規定について“制定から半世紀がたち状況が変わった”として違憲だと判断しました。
これを受けて、ノースカロライナ州などは有権者登録に政府発行の身分証明書の提示を義務付け、投票日前の投票期間を短縮するといった州法を制定します。
身分証明書を持たない人は黒人やヒスパニック(中南米系)に多く、投票日前投票も多くの黒人有権者が利用してきた制度です。「これらの法律は黒人有権者に不釣り合いな形で負担を増やす」(米紙ニューヨーク・タイムズ)と指摘されています。
オバマ大統領は今月6日、投票権法制定50年を記念した演説で、一部の州の策動を批判。「投票権法は、実践上では多くの問題を抱えている。人々を投票から遠ざけるあまりにも多くの動きがある」と懸念を示しました。
デモ行進に参加しているNAACP幹部の一人、クインシー・ベイツ氏は、米テレビに「50年前に投票権法を獲得したが、われわれは再び挑戦を受けている。今度は私の番だ。先輩たちが私にしてくれたように、私も他の人のために行動したい」と話しています。