2015年7月23日(木)
政権与党“60日ルール”かざすが
二院制を否定する暴論
「9月14日からの週に法案をあげ(成立させて)、21日から国連へ行くときの最大のアメリカ土産が安保法制だ。必要があれば60日ルールも使う」
ある自民党関係者は安倍政権が狙う戦争法案成立のシナリオについてこう述べます。
「60日ルール」とは何か。憲法59条1項は法案が成立する基本原則を定め、「(衆参)両議院で可決したとき法律となる」としています。つづいて同条2項は、衆院で可決した法案を参院が否決した場合について、この法案を衆院で再び3分の2以上の多数で再可決したときは、それによって法律となると規定し、衆院の優越を定めました。
そのうえで、同条4項は、衆院で可決され参院へ送られた法案を、参院が受け取ってから60日以内に議決しないとき、衆院は参院がその法案を「否決したものとみなすことができる」としています。「否決とみなす」ためには、そのための議決を行います。これが「60日ルール」です。
つまり、参院での法案審議に時間がかかる場合、参院で否決していないのに、“衆院で「みなし否決」の議決→「3分の2以上の再議決」の道”をつくったのです。
しかし、参院で現に法案審議が継続され、審議日程も決まっている状況の中で、衆院が参院の審議を一方的に打ち切るような、「60日ルール」の運用の仕方は、熟慮と再考の機会を保障した二院制の存在意義を、力で否定することになります。
法案成立の原則は衆参両院の意思の合致である以上、参院で徹底審議が進んでいるとき、その審議を尊重するのが当然です。憲法59条4項は例外中の例外であり、その乱用は厳に戒めるべきです。
「60日ルール」といわれ、当然の原則であるかのように語られますが、議論が尽くされなくても時間が来れば当然のように衆院再議決という単純化は誤りです。
さらにいま「60日ルール」の適用と言われる法案は憲法学者のほとんどが違憲と判定し、歴代内閣法制局長官も違憲と批判している重大法案です。それを、政府与党の都合で、9月14日の週に必ず法案を成立させる方法として、逆算で7月15日に衆院を強行採決で突破し、9月14日になれば参院審議が続いていても強引に「みなし否決」のうえ、衆院で再議決して成立を図るという策略にしているのです。これは二院制と民主主義の根本原則をまったく無視した、世論を踏みにじる、結論先にありきの暴論です。
戦争法案は、衆院での論戦を通じても、根拠も合憲性も崩壊し、国民の反対行動と世論の批判は広がるばかり。その中で、どんなに行き詰まっても、期限がきたとして再び力ずくで強行する―。「60日ルール」適用論は、民主主義破壊の強権運営を今から宣言するもので、絶対に許されません。こんな乱暴なやり方を許さない、草の根のたたかいのさらなる発展が続きます。(中祖寅一)