2015年7月15日(水)
戦争法案「違憲」の指摘 相次ぐ
衆院安保特公聴会 3氏の公述(要旨)
13日の衆院安保法制特別委員会の公聴会で公述した東京慈恵会医科大学の小沢隆一教授、首都大学東京の木村草太准教授、法政大学の山口二郎教授の要旨を紹介します。
歯止めなき武力行使
東京慈恵会医科大教授 小沢隆一さん
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私も呼びかけ人の1人である憲法研究者の声明(6月3日)が述べているように、今回の法案にはいくつかの看過しがたい違憲性が含まれています。
第一に、「存立危機事態対処」は、歯止めのない集団的自衛権行使につながりかねません。何を基準として「他に適当な手段がなく」事態に対処するため自衛隊の武力行使を認めるのか曖昧です。国だけでなく指定公共機関(民間企業)や地方自治体にも、集団的自衛権行使に伴う措置を行わせることを排除しておらず、重大な問題をはらんでいます。
重要影響事態法案における「後方支援活動」と国際平和支援法案における「協力支援活動」は、政府側は武力行使にあたらないとしますが、これは「後方支援」=兵たんは武力行使の一環という国際法、国際社会の常識に反します。活動地域に地理的限定がなく、現に戦闘地域・行為が行われている現場以外のどこでも行われ、従来の周辺事態法やテロ特措法・イラク特措法では禁じられていた弾薬の提供が可能になります。自衛隊が戦闘現場近くで外国の軍隊へ緊密に支援活動を行うことは、外国の武力行使とは一体化でないという論はおよそ成立しません。ここでの自衛隊の支援活動は武力行使に該当し、憲法9条1項に違反します。
深刻なのは、支援活動中に武力紛争の相手側に拘束された自衛隊員が、捕虜としての扱いを受けないことです。これは8日の本委員会での岸田外務大臣の答弁で確認されています。他国の軍隊へ支援活動をする自衛隊は、相手側からすれば敵対行為に直接参加するものとして、文民としての保護を受けない可能性があります。私は自衛隊を憲法9条に反する存在として判断しますが、自衛隊員の生命や権利が軽んじられることはあってはなりません。
さらに自衛隊法改正法案95条の2の規定は、集団的自衛権の前倒しとしての意味をもちます。これは「わが国の防衛に資する」とされる活動をしている米軍などの「武器等防護」をするため、自衛隊に武器の使用を認める規定です。自衛隊が米軍などと、警戒監視活動や軍事演習など平時から事実上の同盟軍的な行動をとることを想定していると思われます。このような活動が周辺諸国との軍事的緊張を高め、偶発的な武力紛争を誘発する可能性があります。
憲法に基づく政治、立憲政治を担う国会機関としての最低限の責務として、議員にはこのような重大な問題をはらむ法案の拙速な審議と採決を断じて行わないよう求めます。
法律家の大半の見解
首都大学東京准教授 木村草太さん
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日本への武力攻撃の着手がない段階での武力行使は違憲です。「我が国の存立」という言葉を従来の政府見解から離れて解釈するのであれば、存立危機事態条項は、日本への武力攻撃の着手のない段階での武力行使を根拠づけるもので、明白に憲法違反です。
法律家の大半が一致する見解であり、裁判所が同様の見解をとる可能性も高いといえます。存立危機事態条項の制定は、看過しがたい訴訟リスクを発生させます。
また、「我が国の存立」という言葉は曖昧模糊(もこ)としています。明確な解釈指針を伴わない法文は、いかなる場合に武力行使を行えるかの基準を曖昧にするもので、憲法9条違反以前に、そもそも違憲と評価すべきでしょう。これでは、武力行使の判断を白紙で一任するようなもので、法の支配そのものの危機だといえます。
国家は、国民により負託された権限しか行使できません。軍事権を日本国政府に付与するか否かは、主権者である国民が憲法を通じて決めることです。憲法改正が実現できないということは、それを国民が望んでいないということでしょう。憲法を無視した政策論は、国民を無視した政策論だと自覚しなければならないと思います。
反知性の政府に疑問
法政大教授 山口二郎さん
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この法案は専守防衛を逸脱するものであり、憲法違反であると考えます。後方支援であれ、他国の武力行使に一体化することは、戦争への参加を意味します。このことは、自衛隊員の危険を高め、日本国内に生活する国民の危険をも高めます。
アメリカによるイラク戦争に参戦したイギリスとスペインで大規模なテロが発生し、多くの市民が犠牲になったことを忘れてはなりません。戦争に参加する以上、さまざまな攻撃を受ける危険がある現実を、包み隠さず自衛隊員と国民に告知することが指導者の責務だと言いたい。
安倍首相は野党の質問に対して、自分は総理大臣だから正しいとか、合憲、安全だと確信していると答え、それ以上議論を深めようとしていません。根拠と論理を示して説明することが為政者の義務ですが、国会の審議は空洞化していると言わざるをえません。
政治の世界に反知性主義がまん延する現状において、日本の政府は日本の安全と国益を守るために冷静な判断を下すだろうかと疑問を持ちます。武力行使の範囲が広がる一方で、政治家の現実主義的な判断能力が低下する。このギャップこそが、日本にとっての存立を脅かす事態だと憂慮しています。