2015年7月7日(火)
主張
ギリシャ国民投票
EUの緊縮一辺倒への「ノー」
財政危機への支援をめぐり欧州連合(EU)など債権団の緊縮提案受け入れの是非を問うギリシャの国民投票で、「ノー」が圧倒的多数を占めました。急進左派連合(SYRIZA)を政権に押し上げた1月総選挙に続く国民のきっぱりとした意思表示に、EUがどう対応するかが問われます。
緊縮で経済も生活も悪化
2月以来の交渉でEUなど債権団側が最終提案だとしてギリシャに示した緊縮策は、いっそうの年金削減と付加価値税(日本の消費税に相当)の増税でした。これで債務の元利払いを除いた基礎収支を黒字にし、債務償還にあてるという内容でした。
政府の財務粉飾をきっかけとして2010年に債務危機に陥ったギリシャは、EU、欧州中央銀行(ECB)、国際通貨基金(IMF)から2度にわたり計2400億ユーロ(約34兆円)の支援を受け、前例のない厳しい緊縮政策の実行を迫られてきました。
緊縮政策は経済を冷え込ませ、国民生活を「人道的危機」と指摘されるまで圧迫しました。
国内総生産(GDP)は5年間に25%も低下し、失業率は危機前の10%弱から今年初めの25%にまで上昇し、若者の場合は現在も50%の高率にあります。経済の低落と賃下げや解雇によって税収も減り、債務は5年前に比べ、対GDP比でかえって5割も増大しました。緊縮策の焦点の年金では、この5年間に年金額は最大で半分近く削減され、年金受給者の半数近くが貧困ライン以下の年金しか受け取っていないといいます。
次々にやってくる債務返済の期限で締め上げるやり方をニューヨーク・タイムズ紙は「金融上のじゅうたん爆撃」と評しました。結局、経済を破綻させ、債務を深刻化させ、国民を困窮状態に追い込んだ緊縮策が、むしろ不況からの脱出をいっそう困難にしていることは明白です。
ところが債権団が最終提案で示したものは、従来と同様の緊縮策を実行することでした。これについて、米国の著名な経済学者ポール・クルーグマン氏は「つねに厳しさを増す緊縮策には先がない」と指摘し、ギリシャ国民に「ノー」の投票を呼び掛けました。
ギリシャのチプラス首相は国民投票の結果を受け、直ちに交渉の再開を提案しました。「『ノー』の勝利はギリシャのユーロ圏離脱を意味する」と威嚇的な発言をしてきた欧州の首脳らは7日夜に、緊急のユーロ圏首脳会議を開き善後策を協議するとしています。
今後の展開は予断を許しません。さしあたり、ギリシャ政府が7日からとした銀行窓口業務の再開が平穏に実施されるかどうかが注目されます。
国民の選択が求めるもの
IMFは国民投票直前の2日、ギリシャの債務を持続可能にするために、支援の期限を「大幅に延長」し、財政上の必要性を満たすためにさらに支援が必要だとする報告書を発表しました。債権団が最終提案とした内容を大幅に修正するものです。
今回のギリシャ国民の選択の影響は、ギリシャだけにとどまりません。EU/ユーロ圏全体に、緊縮一辺倒の方針をやめ、成長・雇用重視、国民生活擁護の姿勢を堅持しつつ必要な改革の道に進むよう迫るものでもあります。