2015年6月30日(火)
ギリシャ問題どうみる
緊縮政策で不況悪化
EUの理念 根底から問われる
ギリシャへの財政支援をめぐる同国と欧州連合(EU)との交渉では、EU側が年金のいっそうの削減と日本の消費税に相当する付加価値税の増税を求め、ギリシャのチプラス政権がこれに抵抗するという構図が、2月の交渉開始以来続いてきました。
「緊縮ストップ」を公約にして1月の総選挙に勝利したチプラス政権にとって、「安易な妥協は政権基盤を揺るがす」という事情があります。他方EU側にも、ギリシャの言い分を認めれば、同様に厳しい緊縮政策を求めているスペインやポルトガルなどにも悪影響が及ぶとの懸念があると指摘されています。
しかし、国民の暮らしの視点から、2010年以来のギリシャ支援と緊縮政策の実態がどうであったかをみる必要があります。
公務員の削減、賃金カット、社会保障の切り下げ、年金カット、増税、水道をはじめとする公共サービスの民営化など、極端な措置が大々的に実行されてきました。
その結果、国民の3割が無医療保険者となり、年金生活者の44・5%が貧困ライン以下の生活を余儀なくされ、自殺者も激増。失業率は現在も25%(若年層では50%)の高率にあります。与党の急進左派連合(SYRIZA)はこれを「人道的危機」と指摘しています。
債務の元利払いを除く財政収支(プライマリー・バランス)では均衡を取り戻しながら、財政赤字削減のための緊縮政策は不況を悪化させ、国内総生産(GDP)は危機前に比べて25%低下。当然、税収は減り、かえって債務は対GDP比で危機前の120%前後から170%超へと激増しました。債務の「健全化」(EUでは対GDP比で60%以下)はますます達成不可能になっています。
チプラス首相の「かたくなさ」の背景には、EUの路線を変え、成長を促し雇用を増やす積極策をとらなければ、これまでと変わらない緊縮政策、つまりは「人道的危機」が、半永久的に続かざるをえないとの懸念があります。
国民生活を守るという点からも、「平和、安定、繁栄、連帯」といったEUの理念に照らして、ギリシャ問題をどう解決するか。EUはいま、その在り方が根底から問われる創設以来最も深刻な問題に直面しています。
(国際委員会・浅田信幸)