2015年6月11日(木)
韓国 MERS拡大背景に医療民営化
隔離施設「圧倒的に不足」 医療団体が批判
韓国でMERS感染患者が初めて確認されてから3週間以上たっても、感染拡大が止まらない事態に、医療従事者らの団体で構成する「健康権実現のための保健医療団体連合」は、医療の民営化がもたらした災害だと批判しています。
同連合の政策委員長で医師のウ・ソッキュン氏は、韓国日報(4日付)への寄稿文で、感染症の対応に欠かせない感染隔離施設が、圧倒的に不足していると指摘します。
平時には使用しないことも多く、維持費もかかる感染隔離病室や病棟を所有しているのは数少ない公立病院です。同国の公立病院の割合は全病院数の約6%で、病床数も約10%。経済協力開発機構(OECD)加盟国の公立病院の割合は73%ですから、極端に少ないといえます。もうからない公立病院を減らし、民営化を進めてきた、患者不在・利益優先の医療政策の結果です。
一方で95%近くを占める民間病院は、隔離病床はなく、むしろ狭いスペースに病床を密集させており、感染患者を増やすこととなりました。
看護職員もOECD諸国平均の3分の1に満たない水準といいます。同連合のビョン・ヘジン企画室長は、韓国社会の伝統といわれる「家族による看護」で感染が広がったとする分析に対し、現在の医療体制が家族による看護で支えられている現状をあげ、「医療関係者の少なさが、院内感染をさらに拡散させた」と、週刊誌(8日号)に述べています。
この間、韓国政府は海外富裕層向けの高額医療をウリにした医療ツーリズムを強化してきました。政府与党は中東からの患者誘致をめざし、さらなる規制緩和をすすめる「国際医療事業支援法」を今国会に提出。MERS患者が発生してからも、与党セヌリ党の幹部は、同法案を6月中に通過させるべき法案の一つと語るなど無反省です。
同連合は、政府に対し、二次感染の震源地となっているサムスンソウル病院への調査と、その結果を国民に情報公開すること、公立病院確保のための具体的な計画作りなどを要求しています。
今後、MERS感染拡大を招いた新自由主義的医療「改革」そのものが問われることになりそうです。
(栗原千鶴)