2015年4月20日(月)
IMF改革「遅れに失望」
新興国の発言権強化進まず
金融委声明 米に承認促す
【ワシントン=島田峰隆】国際通貨基金(IMF)・世銀春季会合の国際通貨金融委員会(IMFC)は18日、ワシントンで会合を開き、世界経済の中で存在感を強める新興国の投票権比率を引き上げるIMF改革が進んでいないことに「深い失望」を表明する声明を発表しました。
IMFの運営方針を決める投票権は、各国の出資額に応じて配分されます。IMFは、経済成長著しい中国など新興国の発言権強化のために、これらの国の出資比率を増やし、投票権比率を引き上げる改革を2010年に承認しました。しかし中国の出資比率拡大と米国の影響力の相対的低下を嫌う米議会が手続きを取らず承認していないため、改革は5年たった今も進んでいません。
声明は「改革の遅れに引き続き深く失望している」と強調し、「米国にできる限り早期に改革を承認するよう求める」と述べました。改革はIMFの信頼性、正当性、有効性にとって重要だとし、「改革の最も早い実施が引き続きわれわれの最優先課題だ」と指摘しました。
声明は、IMF理事会に対し、新興国の出資比率を暫定的に高める「つなぎの解決策」の追求を求めています。
IMFCのカルステンス議長(メキシコ中銀総裁)は18日、「最も良いのは、改革が早期に承認されることだ。われわれは米国にできる限り早期に承認するよう求める」と述べました。
解説
「米国主導」は転換点に
国際通貨基金(IMF)の意思決定に関わる改革の遅れにたいし、主要24カ国で構成する国際通貨金融委員会(IMFC)が「失望」を表明した背景には、世界経済で地位を低下させている米国が、経済成長著しい新興国の発言権を強める改革に背を向けていることがあります。
いま焦点となっている改革案は、2010年11月の理事会で承認されたもの。中国、インドなど新興国の出資割当額(クオータ)を大幅に増やすという内容でした。
IMFでは、総務会、理事会の議決には85%の賛成が必要で、17%を超す投票比率を持つ米国は事実上の拒否権を持っています。そのため、IMFによる各国への融資と引き換えに、規制緩和や民営化など米国流の新自由主義的な政策の押し付けがしばしば行われてきました。
2010年の改革案は、米国のクオータ比率が17%台で1位、日本が2位ですが、主要資本主義国合計のクオータ比率を60・5%から57・7%に下げ、逆に新興国、発展途上国の比率を39・5%から42・3%に増加させるというものでした。
これが実施されると、中国のクオータ比率は4%から6・39%に増加し、独、仏、英を抜いて3位となります。上位10カ国には中国のほか、インド、ロシア、ブラジルが入ることになります。
この改革に異議を唱えているのが米議会。野党の共和党が中国の影響力拡大にあくまで抵抗しているからです。英経済誌『エコノミスト』社説(3月21日号)も「中国や他の新興国の発言権をわずかでも強める改革が、米議会で数年間にわたり妨害されている」と批判的です。
IMFなど既存の国際金融機関の改革の遅れは、新興国主導の新たな金融機関づくりにつながっています。中国が提唱するアジアインフラ投資銀行(AIIB)には、欧州の主要国も含め、57カ国が創設メンバーに加わっています。このほか中国、ロシア、インド、ブラジル、南アフリカによるBRICS開発銀行なども構想されています。
米国主導の国際経済の仕組みは、大きな転換点を迎えています。(西村央)