2015年3月19日(木)
イスラエル総選挙
右派、第1党を維持
アラブ会派、第3党に躍進
【テルアビブ=野村説】中東情勢に大きな影響を与えるイスラエル総選挙(国会定数120、任期4年)は17日投開票が行われ、18日未明、大勢が判明しました。4期目を目指すネタニヤフ首相率いる右派リクードが、中道・左派の統一会派に圧勝し第1党を維持、「アラブ系統一会派」も善戦し、第3党に躍進しました。
直前の世論調査で僅差のリードを許していたリクードは、30議席を獲得し、ネタニヤフ氏は勝利宣言し、「強く安定した政権を築かなければならない」と語りました。
対する中道左派・労働党と中道「ハトヌア(運動)」が統一名簿でのぞんだ会派「シオニスト連合」(シオニスト・キャンプから改名)は24議席で第2党にとどまりました。
リクードは過半数には遠く及ばなかったものの、ほかの極右政党から票を吸収するかたちで解散前から大きく勢力を伸ばしました。
ハダッシュ(イスラエル共産党主体のアラブ系政党)ら4党が初めて手を組んだ「アラブ統一会派」は14議席を獲得して第3党に躍進。前回の総選挙で19議席を勝ち取り、野党第1党だった中道政党「イエシュアティド(未来がある)」は11議席と大幅に勢力を後退させました。
元リクード党員だったカハロン元通信相が党首を務める中道右派「クラヌ」が10議席、パレスチナ国家の否定や入植地の拡大、「ユダヤ人国家」の法制化を訴える極右政党「ユダヤの家」は8議席、同じく「わが家イスラエル」は6議席でした。
今後、リブリン大統領は、選挙結果を受け、議席を得た各党の代表と話し合い、最も支持を得た党首に組閣を要請します。
解説
脅威あおり保守層とりこむ
世論調査などの予想を覆し、右派リクードが第1党となりました。
ネタニヤフ首相は、計3期9年の在任期間中、占領地に建設した住宅をユダヤ系市民に安価に払い下げるとともに、イランの核開発やイスラム武装組織の脅威をあおり、「ユダヤ人国家」の法制化に象徴されるような少数派排斥の試みによって、入植者や保守層をリクードの票田にとりこんできました。
今回、中道左派勢力のシオニスト連合に苦戦を強いられたネタニヤフ氏は選挙中、脅威から国を守れるのは「自分しかいない」と訴え、「私が再選すればパレスチナ国家を認めない」との考えを表明し、イスラエルとパレスチナの「2国家共存」による和平実現を拒否。保守層の票を固めました。
一方、シオニスト連合は、有権者のなかで関心が高まっていた経済政策を中心に選挙戦を展開しました。近年、庶民には手の届かないほど高騰した住宅価格や物価高。自由経済を主導してきた右派政権に対し強い不満を示している若者や中間所得層を中心に支持を集めましたが、およびませんでした。
ハダッシュ(イスラエル共産党主体のアラブ系政党)ら4党が初めて「アラブ統一会派」として選挙戦にのぞみ、第3党に躍進したことは重要です。
地元メディアはアラブ系居住区で投票率が上がったと報じており、14議席を獲得した「アラブ統一会派」が、人口で20%を占めるアラブ系住民の声をどこまで代弁できるのか、期待されます。
中東和平問題では、ネタニヤフ氏がこれまで同様、強硬姿勢をとるなら、いっそうの混乱が予想されます。
パレスチナ自治政府のアリカット和平交渉責任者は、ロイター通信に対して「ネタニヤフ氏が政治人生の中で実現したことは『2国家共存』案を壊したことだけだ」と批判しました。
(テルアビブ=野村説)