2015年2月12日(木)
対「イスラム国」「長期化」と米国
資金・人的流入遮断など複合的に
次期国防長官 「空爆続け、地上部隊育成」
オバマ米政権は、イラクやシリアで勢力を広げる過激組織「イスラム国」を「弱体化させ、最終的に壊滅する」と強調しています。軍事的な対応を進めつつ、「テロ組織とのたたかいは長期になる。多様な文脈のなかで複合的な努力が必要だ」(ライス米大統領補佐官)として、資金源の遮断、法執行や情報活動の強化なども重視する姿勢です。
(ワシントン=島田峰隆)
オバマ政権は昨年8月、「イスラム国」の脅威から米国市民を保護するとして対イラク空爆に踏み切りました。当初は「空爆は限定的」としていたものの、同月後半にはイラク国内の作戦地域を拡大。9月下旬には隣国シリアへの空爆も始めました。
米国は「イスラム国」を追い詰める国際的な有志連合を呼び掛け、これまでに60カ国以上が参加しています。このうちイラク空爆には米国に加えて主に欧州の7カ国、シリア空爆には米国と中東4カ国が加わっています。
空爆2000回
ケリー米国務長官は今月8日、シリアへも作戦を広げた昨年9月以来、有志連合は約2000回の空爆を実施したと述べました。これらの大部分は米軍によるものです。ケリー氏は、この結果、▽「イスラム国」の支配下にあった人口密集地域の5分の1にあたる700平方キロを奪還▽資金源として利用されてきた油田やガス施設200カ所を奪還―などの成果が上がったとしました。
一方、軍事作戦に加わっていたヨルダン人パイロットが「イスラム国」に拘束(後に殺害)される事件が発生。これをきっかけに、有志連合の一角を占めるアラブ首長国連邦(UAE)が、墜落した有志連合軍のパイロットの救助態勢が不十分だとして、空爆参加を一時見合わせるなどしました。米国防総省は6日、墜落したパイロットの捜索救助活動を行う航空機をイラク北部に配備したことを明らかにし、有志連合に動揺が広がることを抑えようとしています。
オバマ大統領は「(戦闘を任務とする)地上軍は送らない」と何度も繰り返し、「イスラム国」の進撃を抑えるために現地のイラク政府軍やシリアの反体制派への軍事訓練や支援を強める方針を示しています。
次期米国防長官に指名されたアシュトン・カーター氏は4日、議会での公聴会で、「重要なのは空爆を続けるとともに、『イスラム国』を打ち負かす能力を持つ現地の地上部隊を速やかに育て、支配された地域を奪い返すことだ」と強調しました。米政府は昨年8月以降、軍事顧問などの任務を持つ米兵をイラクに徐々に派遣しています。駐留米兵は最終的に3000人程度になる見通しです。
米紙ワシントン・ポスト9日付によると、イラクの首都バグダッドに駐在する米高官は「空爆だけでは勝てない。『イスラム国』が実際に支配している地域に行けるイラクの地上部隊が必要だ」と話しました。有志連合参加国との調整役を務めるアレン米大統領特使は8日、ヨルダンのメディアに対し、「有志連合の支援を受けたイラク軍が大規模な地上作戦を行う」との見通しを示しました。
今月に国際会議
米政府は軍事作戦を連日続ける一方で、「暴力的な過激主義とのたたかいは戦場で決着をつけることはできない」(ケリー国務長官)という認識も示しています。ケリー氏は8日、「イスラム国」のようなテロ集団が発生する「発火点を最初の時点で防がなければならない」と強調しました。
米政府は今月18日にワシントンでテロ対策を協議する国際会議を開く予定です。会議は「暴力的な過激主義を防ぎ、その支持者が過激化し、リクルート活動を行ったり、米国内外にいる個人やグループに暴力行為をするようそそのかしたりすることを防ぐ努力」について話し合います。
ケリー氏は「過激主義とのたたかいは教室、職場、礼拝所、市民が集う場所、街の通り、政府の建物でたたかわれ勝利できるものだ」と強調。国際会議で焦点となるテーマについて、テロ集団によるリクルート活動を取り締まる法律の整備のほか、テロの口実とされる不寛容、経済的な絶望感、社会からの疎外などへの対処を挙げました。
安保理会合開く
国連安全保障理事会は昨年8月、「イスラム国」の行動を非難し、その武装解除、解散を求める決議を全会一致で採択しました。決議は、外国人戦闘員の「イスラム国」への流入を防ぐ措置や、テロ組織への資金の流れを遮断することなどを加盟国に求めています。
さらに安保理は同9月、オバマ大統領の主宰で首脳級会合を開き、米政府が主導してまとめた決議を全会一致で採択しました。決議は、外国人戦闘員のテロ組織への合流を防ぐことを目的に、国内法規制を整備することや、テロ組織の動きについて加盟国が情報交換することなどを求めました。
同会合で発言したオバマ氏は「この決議が示すのは、テロ組織へ参加しようとする人たちの問題に対処する上で軍事的な解決はないということだ」と指摘。「それぞれの加盟国の国内での具体的な行動、加盟国同士での具体的な行動」を「数日ではなく何年にもわたって」実践するよう呼び掛けました。