2015年1月27日(火)
ギリシャ 反緊縮政権へ
ユーロ圏で初めて
総選挙 急進左派が第1党
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【アテネ=島崎桂】ギリシャ総選挙(一院制、定数300)が25日、投開票され、現政権が課してきた緊縮政策に反対する野党・急進左派連合(SYRIZA)が第1党を獲得、政権交代が確実となりました。欧州単一通貨ユーロを導入する諸国(ユーロ圏)で反緊縮を掲げる政党が政権を獲得するのは初めて。欧州各国で中道右派と中道左派の両派が2大勢力を構成する中、ギリシャでは左翼政党が歴史的な勝利を収めました。
SYRIZAは比例代表の99議席に第1党に自動的に付与される50議席を加え、149議席を獲得。サマラス首相率いる与党・新民主主義党(ND)は76議席にとどまりました。単独過半数の151議席には届かなかったため、SYRIZAには26日から3日間、連立政権の樹立に向けた他党との交渉期間が与えられます。
ギリシャ史上最年少40歳での首相就任が濃厚となったSYRIZAのツィプラス党首はアテネで演説し、「ギリシャを破壊した緊縮策は過去のものになる」と強調。緊縮策の原因となっていた欧州連合(EU)や国際通貨基金(IMF)への債務返済計画の見直しに向け、「欧州各国の首脳と交渉する準備はできている」と訴えました。
投票のため、2人の子どもを連れて米国から一時帰国したナターシャさん(46)は、「子どもたちの将来のため、ギリシャには変化が必要。夫の姉妹も緊縮策で仕事を失った。新政権が最優先で失業対策に取り組むよう期待している」と話しました。
連立与党は閣僚のほぼ半数が落選する大敗を喫しました。与党・新民主主義党の幹部は、SYRIZAの政権獲得で経済危機が再燃すると、有権者の不安を煽(あお)り続けたサマラス首相の戦略を「誤りだった」と批判しました。
このほか、汚職一掃を訴える新党ポタミ(川)と、移民排斥を掲げる極右「黄金の夜明け」がそれぞれ17議席を獲得。ユーロ圏、欧州連合(EU)、北大西洋条約機構(NATO)からの脱退を求めるギリシャ共産党が15議席、連立与党・全ギリシャ社会主義運動(PASOK)と、反緊縮ながら企業寄りの姿勢をみせる右派「独立ギリシャ人」はそれぞれ13議席でした。
解説
雇用創出策など支持
25日に投開票されたギリシャ総選挙で問われたのは、中道右派・左派の連立政権が国民に課してきた緊縮政策を継続するかしないかでした。
欧州連合(EU)、欧州中央銀行(ECB)、国際通貨基金(IMF)の3機関(通称トロイカ)は2010年以来、欧州債務危機の震源地となった同国に対し、金融支援を実施。融資条件として、歳出削減と財政健全化に向けた緊縮策を求めてきました。
大増税に加え、大規模な社会保障と公務員の削減は同国経済に大打撃を与え、09年に9%だった失業率は約25%に急伸。25歳以下では約50%に達しています。
失業者の増加に伴う消費減退が企業業績を悪化させ、さらなる失業を引き起こすという悪循環も生まれました。
社会保障分野では、医療予算の削減が大量の無保険者を生み出し、医療費を支払えなくなった人々の路上死が続発。貧困を背景としたホームレスや自殺者も急増しました。
政府が主導する国民生活の破壊に対し、国民は度重なるゼネストや無数の抗議行動を通じて、緊縮策の撤回を求めてきました。
今回の選挙で第1党に躍進した急進左派連合(SYRIZA)は、緊縮策の影響を「人道的危機」ととらえ、貧困層を対象とした食料、医療、住宅支援の抜本的強化を公約。30万人分の雇用創出や失業者支援策の拡充を訴え、支持を集めました。
多くの地元メディアは、緊縮策を課してきたサマラス首相の与党・新民主主義党の支持層がSYRIZAに支持を切り替えたと報じ、緊縮策の影響が、かつての緊縮支持層にも広がっていることを示唆しました。
SYRIZAは今回の選挙でギリシャ国民の圧倒的な支持を受けましたが、その政権運営は困難の連続となりそうです。
最大の障害は、2400億ユーロ(約31兆5000億円)に上るトロイカへの債務です。SYRIZAは債務の一部帳消しと、ギリシャの経済状況に応じた返済計画への転換を求めています。
欧州各国に緊縮策の実施を求めるメルケル独首相や、EUの行政府にあたる欧州委員会のユンケル委員長らは、トロイカとサマラス政権が合意した返済計画の順守を求めています。
選挙戦では、SYRIZAのツィプラス党首を始め、同党の支持者からも「返済計画に関する交渉は厳しいものになる」との声が相次ぎました。
(アテネ=島崎桂)