2015年1月6日(火)
タイ新憲法 起草進む
「軍政延長」「非民主的」批判も
【ハノイ=松本眞志】軍事政権下のタイで、2014年5月のクーデターで廃止された憲法に代わる新憲法の起草作業が本格化しています。焦点の一つとなっている首相の資格について、国民が選んだ議員以外でも就任を可能にしており、“議院内閣制を形骸化し、事実上の軍政延長を可能にする非民主的な仕組み”との批判が出ています。
非議員でも選出
クーデターで政権を握ったプラユット陸軍司令官(当時)は、今年10月に新憲法を施行し、16年2月までに総選挙を実施するとしています。憲法起草委員会(CDC)は昨年12月の協議で「政治改革」の名の下に、(1)下院は新たな選挙制度を導入し、議員は政党に所属しなくてもよい(2)上院議員は公選ではなく全員任命制(3)首相は下院で選出されるが、非議員でも可能―とする草案をまとめました。
草案の制度が導入されれば、下院で一つの政党が過半数を得るのは困難で連立政権の可能性が高まると言われています。国軍が毛嫌いするタクシン元首相派の影響力を弱めようとしていることは明らか。同委員会の報道官は、「われわれは強すぎる政府を望まない」と語っています。
“政変の合法化”
草案については、プラユット政権が創設した国家改革評議会内からも、軍政の長期化を懸念する声が上がっています。地元紙バンコク・ポストは、新憲法が「クーデターを合法化するだけの法律と化す」と批判しました。
反タクシン派の最大政党・民主党のアピシット党首(元首相)も昨年12月、非議員の首相就任は「非民主的」と指摘。チュラロンコン大学のシリワン教授(政治学)は地元紙に「時計の針を“半分の民主主義の時代”に戻すもの」と非難しています。
軍政当局は昨年7月、新憲法制定までに効力をもつ暫定憲法を公布しました。暫定憲法は治安維持を理由に、国家平和秩序評議会(NCPO)議長でもあるプラユット首相に「立法・司法・行政のいかなる行動も阻止する命令を出すことができる」権限を与えています。これらの条文が新憲法に引き継がれるかどうか注目されます。
憲法裁判所の特権規定も関心を呼んでいます。07年憲法では、憲法裁判所に事実上、政治介入を認める権限を与えていました。憲法裁はタクシン派政党を幾度も解党に追い込み、インラック前首相を失職させるなど「司法クーデター」と批判されてきました。
地元メディアによると、草案が公論に付されるのは今月12日以降。3万冊の草案パンフが駅やガソリンスタンドなどで国民に配布される予定です。