2014年12月24日(水)
2014 とくほう・特報
米日政府の大学動員など加速
「軍学共同」研究待った
アメリカや日本の軍事組織が武器開発、軍事研究に大学や研究機関を巻き込む「軍学共同」の動きが強まっています。最近の日本ですすめられている「軍学共同」の特徴と、その危険性に反対する研究者たちの活動を紹介します。 (若林明)
東京大学や大阪大学など4大学が来年6月にアメリカの国防総省高等研究計画局(DARPA)の主催するロボットコンテスト「ロボティクス・チャレンジ」(DRC)に参加します。
これらの大学や研究機関は9月30日に災害対応用のロボット研究・開発のために、経済産業省所管の独立行政法人である新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)と研究を受託する契約を結んでいます。東京大学の広報課は、「当該事業実施のうえでの参加要件」になっているとDRCへの出場を明言します。
安倍政権で増加
アメリカのDARPAは、米軍の軍事技術の優位性を維持し、安全保障を脅かす「技術的脅威」を防ぐことを目的とした組織です。これまでも防空ミサイル精密誘導などの研究・開発をおこなってきました。
アメリカでは、第2次世界大戦後、軍事専門の研究所で武器開発をおこなうと同時に、大学などの基礎研究部門を常に注視し、軍事に応用できそうな研究があると共同研究を申し込み、軍事に利用してきました。
アメリカの軍事産業に詳しい西川純子独協大学名誉教授は「最終的に兵器を製造するのは軍事企業です。DARPAはどんな研究が軍事的に必要かを調査、判断し、どこに開発を委嘱するかを決める機関です」と語ります。
日本版のDARPAといえるのが「防衛技術のフロントランナー」を自称する防衛省(東京都新宿区市谷)の技術研究本部です。
第2次安倍晋三政権の成立(2012年12月)以降、この技術研究本部と大学や研究機関との「研究協力」は急激に増加しています。(表参照)
防衛省は、14年6月に「防衛生産・技術基盤戦略」をまとめました。そのなかで、どの分野で、どの企業・大学等が防衛装備品に適した「防衛生産・技術基盤」を持っているかを把握し、評価を行う、そして、防衛装備品に応用可能な民生技術を積極的に活用するとしています。また、「防衛省独自のファンディング(出資)制度」を検討するといい、2015年度概算要求の安全保障技術研究推進制度で、大学などから成果を取り込む競争的資金がもりこまれました。
安倍政権は軍事技術開発に大学・研究機関を利用しようとしています。防衛省の技術研究本部との「研究協力」は、安倍政権の「戦争のできる国づくり」の一環です。
技術研究本部と独立行政法人・海洋研究開発機構(神奈川県横須賀市)の「自律型水中無人探査機のシステム化技術の研究協力」は、「対潜水艦、対機雷戦を想定している」と、若宮健嗣防衛大臣政務官(当時)は国会で認めています。(日本共産党の笠井亮衆院議員の14年4月16日の質問)
池内了名古屋大学名誉教授(宇宙物理学)は「無人の遠隔操縦の爆撃機の海中版です。研究機関が開発をすすめる自律型の水中無人探査機のシステム化技術を対潜水艦、対機雷に応用しよう考えているのでしょう」と指摘します。
成果は公表せず
民間企業と大学・研究機関が協力する産学連携では、一定の期間が経過すると研究成果を公表することが契約に明記されます。研究成果を広く共有することが、学術や産業の発展に必要だからです。しかし、「軍学共同」の場合、防衛省が了解しない限り、研究成果は公表できません。
防衛省の技術研究本部と大学・研究機関との「協定」には「有効期間」を5年間と決めています。ところが、「研究協力」で得た発見の「知的財産権」の扱いは、「当該条項に定める期間又は対象事項が全て消滅するまで、その効力を存続する」としています。つまり、協定自身は5年で効力を失っても、研究の成果の扱いについて技術研究本部と協議することになり、期限が決まっていません。研究成果が国民に知らされることを厳しく制限しています。
池内氏は軍学共同がすすむことについて「科学者が人を殺すための研究に携わる。研究現場にそれに関連するお金が流れ込んでくる。国民の知らないところでそういうことがすすめば国民は科学を信頼しなくなります」といいます。
戦争に加担しない
学者・学生ら反対運動
戦後、憲法9条のもとで、侵略戦争への反省から、日本の「軍学共同」はきわめて抑制されてきました。日本の科学者を国内外で代表する日本学術会議は1950年4月、「戦争を目的とする科学の研究には絶対に従わない決意の表明」を発表し、67年に再度「軍事目的のための科学研究を行わない声明」を発表しています。
80年代後半に、各大学や研究機関で非核平和宣言の運動が広がります。その成果が各大学などの平和宣言・平和憲章です。核廃絶を求める世論に押され、五つの国立大学を含む24の大学・研究機関が「宣言」を出しています。例えば、新潟大学の非核平和宣言では「軍事関係機関やそれに所属する者との共同研究及びそれらからの研究資金の受け入れは行わず」と明記しています。
新潟大学では、核兵器の廃絶を求めて行われていた「広島・長崎からのアピール署名」の運動をきっかけに、教職員が中心となって、大学での非核平和宣言への賛同署名を始めました。当時教職員の半数を超える1600人以上の賛同を得ました。
赤井純治新潟大学名誉教授は「教員・学生が自主的につくった平和講座が、今では正式な大学の教養課程の講義になっています。現在も非核平和宣言の再確認署名に取り組み、学生を中心に1700人の賛同を得ています」といいます。
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