2014年12月18日(木)
2014 とくほう・特報
「自公圧勝」報道の異常
二つの民意 覆い隠す
自民党が改選時比で4議席減らし、公明党と合わせても現状維持にとどまった総選挙。ところが、全国紙は「自公大勝」(「朝日」15日付)、「自公圧勝」(「読売」同)、「自公3分の2超圧勝」(「産経」同)などと「圧勝」報道を続けています。一方で、野党のなかで唯一議席も得票も大幅に伸ばした日本共産党の躍進について、1面の見出しにも出さない全国紙(「朝日」「日経」)もありました。これで公正な報道といえるのでしょうか。
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自民議席減でも「大勝」 派手に
ジャーナリズム論が専門の野原仁岐阜大学教授は「いちばんひどかったのが『朝日』でした。『自公大勝3分の2維持』『アベノミクス継続』という見出しもさることながら、満面の笑みの安倍首相の写真を掲載することで、安倍政権信任というイメージを読者に与える意図を露骨に感じました。『毎日』(『自民微減』、最終版は『横ばい』と報道)以外の各紙はとにかく『圧勝、安倍信任』という結果の一面を大々的に報じることで、共産党が21議席に躍進した事実を矮小(わいしょう)化しているのでないかと思います」と指摘します。
ちなみに、政党間の力関係を端的に示す比例代表選挙で自民党の得票率は33%です。全有権者に占める同党の得票数(絶対得票率)は約17%にすぎません。安倍政権「圧勝」などという全国紙の報道は事実の報道とはいえません。
新聞ジャーナリストの阿部裕氏は、「勝敗の基準について『単独過半数』『自公で安定多数』などの安倍首相の発言に引きずられ、『圧勝』『大勝』と表記した。本来ならば現有議席の増減を基準にすべきで、自民党は議席を減らしたのだから『微減』『横ばい』が正しい評価です」とのべ、あわせて大政党に有利に民意をゆがめる小選挙区制の欠陥を指摘します。
さらに、自民党が在京テレビキー局にたいし、選挙報道で出演者の選定、街頭インタビューなど番組の表現方法までたちいった異例の要請をしたことに「各メディアに対するこうした自民党の圧力の事実を全国紙がきちんと報道しない体質も大いに問題です」と批判します。
共同通信社出身で元関東学院大学教授の丸山重威氏は「選挙の争点では、与党のいう通り『アベノミクス』を中心に据え、改憲推進の2年間の安倍政治と憲法が争点なのに、ほとんどクローズアップしていない。書いたのは『東京』くらいです」といいます。
共産躍進も
今回の結果に示された民意の特徴の一つは、安倍政権に最も厳しく対決した日本共産党が改選8議席から21議席と2・6倍に躍進したことです。他の野党は、民主が11議席増になったものの党首が落選して辞任表明する、維新の党は議席減で共同代表が「これは完敗」と表明する、極右の改憲政党・次世代は17減の2議席に激減しています。
ところが、「自公圧勝」のはでな報道の半面、15日付1面見出しで「共産躍進」と報じている全国紙は「毎日」「産経」と一段見出しで「読売」です。
この問題で16日付のブロック紙「東京」が3面企画「小選挙区で異変」で、「自民 沖縄、山梨『空白県』」「共産 前回より230万票増」と両党を対比的に報道しましたが、「こうしたフォローは大事」と先の阿部氏はいいます。
沖縄完勝も
沖縄県の四つの小選挙区では、安倍首相が「大変残念な結果」(15日)といわざるを得なかったように、米軍新基地反対の候補者が全員勝利し、県民を裏切った自民党候補が全員落選したことも、画期的な民意の表れでした。ところが15日付1面では、「東京」が「小選挙区 自民 沖縄で全敗」と報じただけでした。
野原氏は「沖縄の結果を1面で扱わないのは、全国紙が『中央の視点』からしか物事を捉えない証左ではないか」といい、丸山氏は「沖縄で『反自民』の統一ができ、全員勝利した意味は大きい。全国的にきちんと取り上げるべきです」と指摘します。阿部氏は「沖縄の未来は県民が決めるという自己決定権、主権者の勝利こそ、本土のメディアが沖縄から学ばなければならない最も重要な教訓です」と強調します。
(山沢猛、若林明)