「しんぶん赤旗」
日本共産党
メール

申し込み記者募集・見学会主張とコラム電話相談キーワードPRグッズ
日本共産党しんぶん赤旗前頁に戻る

2014年10月26日(日)

2014 焦点・論点

エボラ感染 アフリカ現地の様子は…

国境なき医師団・看護師 大滝潤子さん

毎日数人から10人死亡、過酷な現場 医療従事者不足

このエントリーをはてなブックマークに追加 Yahoo!ブックマークに登録 mixiチェック

 西アフリカで拡大を続けるエボラ出血熱の感染者は欧米にも広がり、1万人を超えました。死者数も5000人に迫っています。現地では国際医療チームなどが必死の救援活動を続けていますが、圧倒的な人的資源の不足から有効な手だてが打てていません。混乱を極める流行国のひとつシエラレオネで、8月3日から9月10日まで看護師として医療支援に携わった国際医療援助団体「国境なき医師団」の大滝潤子さん(38)に現地の様子を聞きました。

 聞き手 野村説 写真は国境なき医師団提供


写真

(写真)大滝潤子看護師

 私が赴任したシエラレオネ東部カイラフンの野営病院は「国境なき医師団」が6月に設営し、首都フリータウンから車で12時間くらい走ったギニアとの国境沿いのジャングルを切り開いた山中にあります。

 エボラ出血熱の症状が表れたり感染が疑われればここに来て採血し、結果は数時間で出ます。陰性なら帰宅しますが、陽性なら隔離病棟に移ります。結果を無言で受け入れる人もいれば、涙を流す人もいます。家族で集団感染する事例も多く、来たときは一緒でも帰りは子どもだけのこともあるし、その逆もあります。乳児は母乳から感染することがあります。

大声で泣く子も

 感染者との面会は可能ですが、多くは貧しく交通手段もないためそれきりになることもあります。親兄弟と離ればなれになって取り残された子どもは大声で泣きます。スタッフの防護服姿を怖がって泣く子どももいます。16歳の男の子は家族全員を亡くし、口が利けなくなりました。

 ここでの致死率は65%程度。病棟では毎日、数人から多ければ10人ほど亡くなります。症状は頭痛、発熱、咽頭痛、関節痛から始まり、目の充血、腹痛、下痢、嘔吐(おうと)と進行します。末期には吐血、下血、皮下出血、多臓器不全で複数の部位から出血します。しゃっくりを繰り返すこともエボラ出血熱の患者に特有の症状です。

図

 症状が急激に進行して短時間で亡くなる人もいれば、歯茎や目、鼻、耳からの出血など重い症状に苦しみ、意識を混濁して息を引き取る人もいます。

 死体はビニールの遺体袋に密閉したまま土葬します。地元のボランティアがスコップで数メートルの深さの穴を掘って一体ずつ埋めるため、大変な重労働です。土葬の際に家族や親族が立ち会う場合もあれば、来られない場合もあります。ビニール製のベッドは洗浄・消毒し、シーツや衣類などは焼却します。

 カイラフンの野営病院は数十メートル四方の敷地があり、テント仕立てで地面には雨水が入り込まないよう段差があります。電気は大型の発電機で供給しています。村落の治安は保たれていて怖い思いをしたことはありません。

写真

(写真)打ち合わせを行うエボラ出血熱の医療チーム(正面右から2人目が大滝潤子さん)=8月16日、シエラレオネ東部カイラフン

写真

(写真)7月11日、シエラレオネ東部カイラフンでエボラ出血熱で亡くなった患者を埋葬する人たち。イスラム教とキリスト教の両方の祈りをします

 主に欧州やアジアから派遣されたカイラフンの外国人医療スタッフは30〜40代が中心で、医師と看護師あわせて10人前後。外国人同士もキス、ハグ、握手は厳禁です。感染を防止するために、病院内の動線(経路)は一方通行が厳格に定められています。

 80床のベッドは平均して50〜60床ほどが埋まり、満床になるくらいのピーク時は新しい患者を断る時もありました。

気温は30度以上

 現地は高温多湿で気温は30度以上にも及びます。隔離棟では防護服、キャップ、ゴーグル、マスク、エプロン、長靴、手袋を身につけ、サウナに入っているようで汗だくになります。着衣は1ミリの隙間も無いよう鏡を見てチェックします。ゴーグルや長靴は使用後に衛生チームが洗浄・消毒し、乾燥させて再利用します。

 防護服の着脱時は特に慎重を期します。必ず2人一組になってルールに従いすすめます。一つひとつの動作の後に消毒を行い、着脱には十分な時間をかけます。小さなミスを起こさないためにも集中力の持続は重要なカギになります。

 エボラ出血熱の治療薬は未開発で対症療法以外の手がありません。脱水症状や栄養不良に陥っている患者には点滴や経口補水し、痛みを訴える患者には鎮痛剤を用います。

 痛みの除去は患者の免疫力、体力を維持するうえで有効です。どれだけ早くこれらの措置を患者に施せるかどうかが、多くの命運を左右します。同時に、患者や遺族、孤児への心理的サポートも重要課題だと感じました。

 医療器具や薬品、インフラは足りている一方、人的資源が圧倒的に不足しています。滞在する外国人スタッフには個人の裁量権が保障され、動機付けを保てなくなった人は帰国していきます。協力関係にある現地スタッフも病気への誤解や偏見が残っているため、必要数の確保は簡単ではありません。

 エボラ出血熱は極めて少量の体液(血液、吐しゃ物、精液、排せつ物、汗など)を媒介するので、いつどこで感染するか分からない恐怖があります。医療スタッフであってもウイルスとの接触経路が特定できないことがあります。一方、正しい知識を身につけ、ルールに従った厳格な行動を取ることで感染リスクを最小化できるという確信もあります。


 国境なき医師団 中立・独立・公平な立場で紛争や災害、貧困などの現場で緊急性の高い医療・人道援助活動を行う民間・非営利の国際団体。2013年には3万6000人以上の海外派遣スタッフと現地スタッフが約70の国と地域で活動。1971年にフランスで設立(日本事務局は92年開設)。99年ノーベル平和賞受賞。


初の国連派遣団 危機管理強化へ

 エボラ出血熱は2013年までの40年弱でアフリカ中部を中心に24回の流行が確認され、計約1600人が亡くなっています。しかし今回、猛威を振るう西アフリカの流行では1年足らずで5000人近くが死亡。従来の規模をはるかに上回る「非常事態」になっています。

 複数の二次感染者を出した米国や欧州では、水際での検疫体制を強化するなどして感染防御に躍起になっており、日本でも厚生労働省などが各空港で体温測定や体調不良者の自己申告を呼びかけるなど危機管理を強めています。

 ナイジェリアなど収束宣言をした国もありますが、今のところ沈静化に向けた見通しはまったく立っていません。世界保健機関(WHO)は14日、新規感染者が現在の週1000人程度から、12月上旬には5000人〜1万人に膨らむ恐れがあると警告。11月上旬までに感染者は2万人を超える可能性が高いとの認識を示しています。

 潘基文(パンギムン)国連事務総長は9月19日、公衆衛生上の危機に対応する初の国連派遣団「国連エボラ緊急対応派遣団」を設立。感染拡大阻止に必要な迅速、かつ効果的な行動を確実に行うことを主な任務とします。

 ギニアのコンデ大統領は10月9日、米国での国際会議で「多くの課題があるが技術、資金での能力が限られる」と訴え、医療器具や薬品といった物資、医療関係者の教育・訓練などの資金を国際社会に要請。潘氏は「支援を少なくとも20倍にする必要がある。国際社会が立ち上がる時だ」と呼び掛けています。

 (野村説)


見本紙 購読 ページの上にもどる
日本共産党 (c)日本共産党中央委員会 ご利用にあたって