2014年10月24日(金)
2014 とくほう・特報
子どもの貧困 過去最悪
国の責任で子どもに希望を
夜まで働くお母さんの帰りをコンビニでパンを買って待ち続ける小学生。親にお金の心配をかけまいと、希望の部活や修学旅行をあきらめる中学生。一日のうち、まともな食事は給食だけ…。いま日本では子どもの6人に1人が貧困に陥っています。7月の厚生労働省の発表では、「子どもの貧困率」が過去最悪の16・3%となり、「ひとり親家庭」の貧困率は54・6%にもなります。政治と社会が総力あげ「子どもの貧困」対策にとりくむ時です。 (党女性委員会 梅村早江子、中川葵)
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日本の子どもの貧困率は、経済協力開発機構(OECD)加盟国中ワースト9の深刻さです。このように急増する背景には、政府がすすめてきた雇用、福祉、社会保障の切りすてによって、「格差と貧困」を拡大してきたことがあります。
東京都新宿区に住む鈴木幸二さん(44)は、派遣会社に登録する妻と、生後11カ月から高校生までの女の子4人のにぎやかな6人家族です。
一汁一菜もままならぬ
一家の暮らしが一変したのは8年前。鈴木さんが13年間働いたIT企業でパワハラにあい、退職に追い込まれたからでした。対人恐怖症になり、40歳もこえ、正規の仕事は見つかりません。
アルバイトをしながら貯金を取り崩し、「一汁一菜もままならない」「娘のサマーセーターを1枚しか買ってやれない」という生活を続けるなか、クーラーを我慢し、ついに子どもが熱中症で病院に運ばれる事態に。
「このままでは命の危険も」と生活保護をうけることにしましたが、その鈴木さん一家を次に襲いかかったのが、生活保護費の連続切り下げでした。
鈴木さん宅では、昨年8月に月7600円、さらに今年4月に月1万5000円近くが減額に。実に月の食費予算の約3分の1、年間18万円もの切り下げです。この上、消費税の8%増税、食品の値上がりです。
「安倍政権がやっていることは、子どもの貧困を加速させる暴走だ」と鈴木さん。現在、「新宿生活と健康を守る会」の会員として、生活保護費削減への不服審査請求運動に立ち上がっています。
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部活用具に十数万円も
就学援助を受ける小中学生も急増し、全国で約155万人、6人に1人です。
埼玉県の紀田千尋さん(35)は中学生、小学生、保育園児のお母さん。3年前に夫が突然倒れ、家計収入が6割に減り、就学援助を申請しました。
「『お金に心配しないですむ』とホッとした矢先、長男が中学入学で剣道部を希望したんです。防具代の十数万円にもびっくりしたが、防具には就学援助が適用されないと知りがくぜんとしました」と言います。
「子育てにお金がかかりすぎる」と紀田さん。文部科学省の「学習費調査」では、学校教育費、学校給食費、学校外活動費にかかる総額の平均は、公立小学校で年間30万5807円、公立中学校で45万340円にも(2012年度)。紀田さんは、「先進国は教育費無償化が大勢というのに日本はどうして」と声をあげます。
「とりわけシングルマザーは深刻」と語るのは、徳丸ゆき子さん(大阪子どもの貧困アクショングループ代表)です。
「その月その月をみんな必死で生きています。あるお母さんは、『あと1週間で100円しかない。なくなったら子どもと心中しよう、どうやって死ぬか考えていた』と連絡をくれました」。この1年間、とりくんできたシングルマザーへのヒアリング(聞き取り調査)から次のように話します。
―お母さんたちに必要な支援は現金給付だということです。給付があれば、かけもちの仕事をひとつ辞めて、その時間を子どもと過ごすことができます。お子さんを夜ひとり置いて寂しい思いをさせずにすみます。
DV(家庭内暴力)で心身が傷ついた母親が生活保護を受けても「すぐ働け」と言われ、生活保護を打ち切られる、するとたちまちワーキングプアに陥り体を壊す。心身のケア、居場所づくりも重要だと実感します。
徳丸さんは、以前イギリスに住んでいた経験から、「イギリスの対策がすべてよしとは思いませんが、国の覚悟で子どもがいる世帯への経済的支援などを充実させ、貧困率を削減させたことは事実。制度で変わるという見本であり、日本でも世論の後押しで動かしていこう」と呼びかけています。
給付制奨学金・児童扶養手当拡充… 根本的解決へ
政府は、昨年制定した「子どもの貧困対策法」を受け、「子どもの貧困大綱」を閣議決定(8月29日)しました。「親から子への貧困の連鎖を断ち切る」ことをうたい、「教育支援」「生活支援」「保護者に対する支援」「経済支援」の4分野で40項目の課題をかかげています。
ところが、さまざまな団体が要望した、貧困率改善の数値目標、児童扶養手当の拡充、給付型奨学金の導入、就学援助の拡充、子どもの医療費の窓口負担ゼロなどは盛り込まれませんでした。
「大綱」にもとづく来年度予算案も、スクールソーシャルワーカー(学校に配置される社会福祉士などの専門家)の9億3000万円、高校生奨学給付金の88億円などの増額はあるものの、ほとんどが従来の延長線。逆に、生活保護世帯の学習支援は国庫負担補助を半減させる計画です。
これに対し「実効性ある施策が必要」「見直しが5年後とは、子どもたちは待ってられない」の批判が上がっています。
日本共産党の高橋ちづ子衆院議員(厚生労働委員)はこう指摘します。
「大綱は間接的な支援ばかりで、根本的な問題は解決しません。給付制の奨学金の創設、児童扶養手当の拡充など、直接的な給付を拡充すべきです。非正規雇用の固定化はやめ、賃金格差を是正するなど、働き方の問題の解決も急がれます。政府は、子どもの貧困対策法をつくった以上はそれに沿った措置をするべきです」
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克服へ今必要なことは
立教大教授 浅井春夫さん
「大綱」では世界の常識である子どもの貧困率改善の数値目標が示されませんでした。国に本気度がないといわざるをえません。
子どもの貧困の実情は地域によって表れ方が異なります。まず、国が改善策と予算を示し、県レベルでの政策の具体化が必要です。独自の子どもの貧困調査もおこなうべきですが、予算もゼロです。
アベノミクスの三つの矢は折れ曲がり、非正規雇用の拡大や社会保障の改悪など国民生活を直撃し、貧困・格差を広げています。
それに対して「子どもの貧困を克服する4本の矢」として、(1)健康な食生活の確保、(2)学習する権利の支援、(3)大学等の進学機会の保障、(4)貧困世帯への経済的支援が必要です。今後、子どもの貧困情報センターづくりや、児童養護施設の子どもの大学進学を公的に保障するアクションを、多くの人たちと協力しながらすすめたいと思っています。
すべての子どもに希望を与えることは、おとなや国の責任です。