2014年10月15日(水)
2014 とくほう・特報
「慰安婦」裁判も米下院決議も「吉田証言」を根拠にせず
事実ねじ曲げる「河野談話」否定派の迷走
朝鮮半島で「慰安婦」狩りをしたなどとする「吉田証言」が、「慰安婦」問題で日本軍の関与と強制性を認め、謝罪した「河野談話」に採用されていないことを安倍政権が認めました(本紙4日付)。このもとで、「河野談話」を否定する勢力が攻撃の足場を失い、迷走をはじめています。そこで、あらたに持ち出してきたのが“「吉田証言」は「慰安婦」裁判や、外国の日本非難決議の源になった”などという主張です。これは、「朝日」が「吉田証言」を取り消したことに乗じて「慰安婦」制度の問題そのものを否定しようとする議論ですが、これほど事実をねじ曲げた話はありません。「慰安婦」否定派のあせりと矛盾は、いよいよ深刻となっています。(党政策委員会 小松公生)
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「吉田証言」が「慰安婦」裁判、米下院決議に反映されたと主張する否定派
自民党の稲田朋美・政調会長(前行革担当相)は3日の衆院予算委員会で、「慰安婦」裁判にふれ、「吉田清治が証言した奴隷狩りだとか性奴隷、強制連行、すべてそれが真実として判決の中に書き込まれている」などとのべました。稲田氏はまた、2007年に米下院で採択された対日謝罪要求決議や、国連の報告書についても、「吉田証言の虚偽を根拠として、日本の名誉は地に落ちている」などと主張し、次のようにつづけました。
「国連からは性奴隷国家として名指しで批判されて、アメリカの下院では平成19年に、日本にたいして謝罪をしろ、教科書で未来永劫(えいごう)、子どもたちに教えろと言われ、それと同じ内容の決議が、台湾、オランダでもされております」
米下院決議と「吉田証言」との関係については、「産経」ワシントン駐在客員特派員の古森義久氏も、「慰安婦狩りをしたとするデマの吉田清治証言は米国の議員らが審議で最大の参考記録とした議会調査局報告書の基礎となったのだから、決議自体が日本にとって冤罪(えんざい)だといえよう」(「産経」8月17日付)とのべていました。
これらの主張は、「『吉田証言』をもとに『河野談話』が作成された」とする議論がなりたたなくなったもとで、“「吉田証言」によって日本の慰安婦問題への誤解が世界に広がった”かのように描きだそうとするものです。
しかし、こんな議論はまったく通用しません。
「吉田証言」をもとに強制連行を認定した「慰安婦」裁判の判決は一つもない
「慰安婦」裁判とは、韓国の元「慰安婦」の金 学順(キム ハクスン)さんが日本政府を相手どって1991年に提訴したのを皮切りに、フィリピン、台湾などの元「慰安婦」が2010年までたたかった10件の裁判です。日本共産党の志位和夫委員長が3月14日に発表した見解(志位見解)で明らかにしたように、このうち8件の裁判で35人が「本人の意に反して慰安婦とさせられた」事実が認定されました。
重要なのは、このすべての裁判の確定判決で「吉田証言」がまったく採用されていないことです。稲田氏は、「(吉田証言が)真実として判決の中に書き込まれている」などと主張していますが、どこにもそんな“真実”はありません。
たしかに、金学順さんら最初の「慰安婦」裁判の提訴状には、「吉田証言」が明記されています。提訴状が出されたのは91年12月で、メディアはもとより研究者のあいだでも、まだ「吉田証言」の信ぴょう性が疑われていない時期でした。
しかし、2003年に言い渡されたこの裁判の高裁判決は、「吉田証言」にいっさい依拠していません。判決は、裁判での詳細な審理を経て事実認定をおこない、ある被害者について「数え17歳の時、『日本人の紹介するいい働き口がある』と聞いて行ったところ、日本人と朝鮮人に、……連れて行かれた」と認定しています。
「吉田証言や朝日報道は米決議に影響していない」と起草者
“米下院決議が吉田証言をもとに作成された”という主張も、まったくでたらめです。
「毎日」10月11日付は、米下院決議を起草した関係者や当時の米議会関係者が“決議には吉田証言や「朝日」の報道はいっさい影響していない”と証言していることを報じています。
「決議作成に関わったアジア・ポリシー・ポイントのミンディ・コトラー所長は毎日新聞に『吉田証言は全く参考にしていない』と語り、当時下院外交委員会上級スタッフだったデニス・ハルピン氏は『吉田証言や朝日報道が審議に影響したことは全くない』としている」
さらに、この記事で注目されるのは、やはり米下院決議の起草者の一人であるラリー・ニクシュ氏が、「吉田証言が慰安婦問題の国際世論に影響を与えた決定的な要素だったという主張は、ほとんど正当化されない」とのべ、次のように強調していることです。
「歴史修正主義者は、河野談話を攻撃し、慰安婦の強制的な募集がなかったと主張するために、吉田証言のウソを利用している。国際世論には、吉田証言をはるかにしのぐ複合的な証拠が影響している」
志位見解が明らかにしたように、「慰安婦」問題にかかわって、これまで米国をふくむ七つの国と地域で、日本政府の謝罪と責任を明確にすることを求める決議があげられています。そのいずれも「吉田証言」を採用せずに、「慰安婦」問題の本質が軍による事実上の性奴隷状態にあったことを告発しているのです。
歴史を隠蔽、改ざんする勢力に未来はない
いま、日本政府と政界が、「河野談話」の扱いはもとより「慰安婦」問題にどう対応しようとしているかを、世界中が注目しています。それは、この問題が過去の一時期のことでもなければ、限定された地域のできごとでもなく、女性の尊厳と人道問題という、人類の普遍的な課題にかかわる重大問題だからです。
そのときに、事実をねつ造し、歪曲(わいきょく)してまで日本軍「慰安婦」制度の問題を覆い隠そうとするのは、きわめて卑劣なやり方といわなければなりません。このことは、「河野談話」を否定しようとする勢力が一片の道理も持ち合わせておらず、深刻な行き詰まりに直面していることを証明しています。こうした人びとは、口を開けば「日本の名誉」とか「反日宣伝から日本を守る」などと主張していますが、日本の名誉をおとしめ、恥を世界にさらしているのが、これらの勢力です。
「都合の悪い歴史を隠蔽(いんぺい)し、改ざんすることは、最も恥ずべきことです。そのような勢力に未来はけっしてありません」――志位見解で明らかにしたこの指摘は、「河野談話」否定派のこの間の迷走と混乱をみると、ますます重みをもって迫ってきます。
米決議作成者らの“反論”米下院決議が「吉田証言」を根拠にせずに作成されていたことは、9月25日付のインターネット上の会員制情報「ネルソン・レポート」(英文)でも指摘されていました。 これは、「毎日」(9月11日付)が「〔米下院〕決議案の議員説明用の資料にも、途中段階で吉田氏の著書が出てくる」として、「吉田証言」が下院決議に影響したかのように記述していたことにたいし、下院決議の作成と審議に関与した4人の「共同の回答」という形の“反論”でした。 「回答」は、「私たちは『毎日』の記者に以下のように明白に伝えていた」として、次のように指摘しています。 「吉田証言や、それを報じた『朝日』の記事を根拠に、決議を検討したことも起草したことも、正当化したこともない。ミンディ・コトラーは『毎日』の記者に……歴史修正主義者にとって異論の多い出版物を引用しないだけでなく、批評さえしないよう協調して努力したと伝えた」 そのうえで、事実と証拠を検討するなら、「吉田証言が慰安婦問題の事実をゆがめた」などという主張の誤りは是正されると指摘しています。 「同紙(『毎日』)はすべての事実と証拠を吟味し、報道する必要がある。それによって、『朝日』が報道した吉田証言が、慰安婦の悲劇に関する理解全体を潤色しているといった日本の歴史修正主義者と安倍政権の見解は誤りだと証明されるだろう」 |