2014年9月24日(水)
2014 とくほう・特報
“あすわか”弁護士急増中28人 → 340人
自民改憲案に危機感
しゃれたカフェやレストランで憲法を語る弁護士が話題を呼んでいます。弁護士登録15年以下の若手でつくる「明日の自由を守る若手弁護士の会」(略称・あすわか)。2013年1月に28人で発足した会は、いまや340人に成長。メンバーが女性誌に次つぎと登場したり、集団的自衛権や自民党改憲草案の問題点をコミカルなイラストで解説したリーフレットを計40万枚普及したりと、その勢いがとまらない。(竹原東吾、内藤真己子)
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おしゃれにカフェタブー取り払う
9月上旬のランチタイム。埼玉県蓮田(はすだ)市のスパイシーな香り漂うカレーカフェに、女性が14人、ポツポツと集まってきました。半数近くはベビーカーを押す子連れママ。あすわかメンバーの竪十萌子(たてともこ)弁護士(32)の「憲法カフェ」が始まります。
この日の話題は「集団的自衛権、秘密保護法ってな〜に? 憲法が変わるとどうなるの?」。○×式のクイズにママたちが答えていくスタイルで、竪さんが話を進めます。
「自衛隊が他国で他国の人を殺せば、イラク戦争に加わったイギリスのように、日本でもテロが起こる危険性が高まります。決して、私たちに関係のない話ではないのです」
傍らでゼロ歳の赤ちゃんたちが、せわしなくハイハイ。少し大きなお兄ちゃんたちは電車のおもちゃに夢中です。授乳するママたちも。カレーを味わいながら、カフェの2階でゆったり、くつろいだ時間が流れます。でも、おしゃべりの中身はいたって硬派です。
「徴兵制にしなくても自衛隊員を確保する方法はあります。社会の格差を広げ、自衛隊に入れば、生活できるようにすることです」
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「えーっ」「でも、そうだよね…」。驚き、うなずくママたちから、ため息がもれてきます。
幼児を連れて参加した和田祐子さん(36)=さいたま市=は「子どもによりよい世の中を残したい。一番こわいのは知らないこと。もっと勉強したい」。
子守りたい仲間と発足
あすわか共同代表の黒澤いつきさん(33)は「メンバーは会ったことのない方が大半ですが、予想以上に共感が広がり、とてもうれしい」と話します。黒澤さん自身は現在育児に専念し、弁護士登録を抹消中です。
ことの発端は、国家が人を縛る自民党憲法「改正」草案の恐ろしさ、その自民党が2012年総選挙で安定多数をえた衝撃です。「このままでは子どもを守れない…」。同じ危機感をもつ仲間で、あすわかを発足させました。
「民主主義も自由もない国で子どもが一生を過ごすことを想像してほしい。知ってさえもらえれば子を守るためにママもパパも立ち上がってくれる。だから子連れ大歓迎の憲法カフェを展開しているんです」(黒澤さん)
女性ファッション誌『VERY(ヴェリィ)』3月号の特集「お母さんこそ、改憲の前に知憲!」にメンバーが登場したことが評判に。カフェやレストランで開いた憲法カフェは全国で100回をゆうに超え、公民館や保育園、教会で開いたものもあわせると500回を超えています。
「堅苦しさをいかに取り払うかが秘けつです。若い人たちがやっている芸能界や子育て話の延長で、誰もが気軽に行けるレストランで、憲法のイロハをおしゃれに知ってみようという感じで。政治を語ることがタブーという空気を取り払いたかった」(黒澤さん)
多士済々の顔がそろう
あすわかに加わる若手弁護士は多士済々―。
東京や神奈川で、憲法カフェを開く倉持麟太郎弁護士(31)は慶応大学出身。改憲論者を自認する小林節名誉教授のゼミに所属していた経歴を持ち、自らも「適正な内容であれば改憲してもよい」との立場です。
ただし、自民党改憲草案にたいしては「立憲主義や人類が獲得してきた普遍的価値を抹消させようとしている」と厳しい視線を送ります。「9条を変える必要は全くない」とも。
「憲法は国内の最高法規だけでなく、外交宣言文書です。裁判所のような強制執行機関がない国際社会で、一番重要なのは信頼の醸成。攻撃は仕掛けないと外交宣言した日本は『集団的自衛権も行使しない』と踏ん張り続けなければならない」
自民党の議員とも懇意にしています。「あすわかも、これからは自民党のなかで憲法カフェを開いていくぐらいの活動が必要です」と熱っぽく語ります。
静岡県浜松市の内山宙(ひろし)弁護士(40)は「いろんな人の、いろんな引っ掛かりどころ」に憲法が届くよう、発信に工夫を凝らします。
宮崎駿監督の映画「風立ちぬ」を見た人に向けては、劇中に登場した特高警察にからめて秘密保護法を論じ、子育て世代には「子どもたちにどんな日本を残したいか」を問う―。
TOEIC(英語能力試験)910点の語学力で、あすわかの海外発信も担当します。
なぜ、あすわかに?
「憲法の大事な価値に『個人の尊厳』があります。人はそれぞれ違っていて良いと憲法が認めてくれている。自分が学び、すばらしいと思ったものが、憲法を全然知らない人たちに壊されてしまうことが、我慢ならないわけです」
小さな灯火広がってる
全国で広がるあすわかの活動について、メンバーの1人、新潟県上越市の田中淳哉弁護士(39)は「既存の護憲団体に属しない人びとにどう情報を提供し、関心を持ってもらうか、みんなが頭を悩ませ続けていたと思います。そこに手を届かせるための試みを始め、実際に少しずつでも広げていっているところに意義がある」と語ります。
自身も主に集団的自衛権をテーマにした憲法カフェを開いてきたなかで、参加者からこんな感想を聞きました。「ニュースを聞いてもよく分からなかったのは、自分に理解力がなかったからではなく、大切な情報が伝えられていなかったからだとわかった」
この参加者は以後、仲間に呼びかけて憲法カフェを繰り返し開き、新規にカフェの案内チラシを置いてくれるお店も探すようになりました。こうしたなかから、市議会にたいして集団的自衛権の行使を認めた「閣議決定」の撤回を求める意見書をあげるよう請願する運動が起こっています。
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再び、蓮田市の憲法カフェ―
「こういう会は幼稚園でやってもいいよね」。ママたちはベビーカーを押しながら、三々五々、帰途に着きます。
竪さんが憲法カフェを続ける思いは?
「とにかく子どもたちを戦争に行かせたくない。その思いだけです。ママたちにまずは知って、考えてほしい。憲法カフェの目標は参加者が次の憲法カフェを企画してつなげていくことですが、毎回達成しています。小さな灯火(ともしび)だけど、確実に燃え続けていて、私の希望になっています」
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