2014年9月19日(金)
2014 焦点・論点
ヘイトスピーチデモに抗議する
日の丸や旭日旗(軍旗)を掲げて街を歩き、「朝鮮人をたたき出せ!」などと声を張り上げるヘイトスピーチ(憎悪表現)デモ。差別をあおりたてるこのヘイトデモをどう考えればいいのか。日本の東西(東京、大阪)で、抗議活動の先頭に立つ2人に聞きました。
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憂える人が声あげれば変わる
「仲良くしようぜパレード2014in大阪」運営委員 ITOKEN(いとけん)さん(33)
―ヘイトスピーチの現場で抗議行動をしていますね。
在日コリアンをはじめ社会的少数者を攻撃するヘイトスピーチは暴力です。リアルタイムで被害者を生み、その傷は場合によっては一生癒えることはありません。だからすぐにやめさせなきゃダメです。カウンター(抗議行動)は「応急処置」ですが、現場で反対を示すことで被害の拡大を防ぐ意味があります。
尊厳おとしめる
「ヘイトスピーチはレッドカード」であると社会に示すことも大事です。少数者の尊厳をおとしめるような発言を許すことは、この社会で暮らす人、一人ひとりが社会を作り上げる、という民主主義の原則を傷つけることでもあります。
―パレードもはじめましたね。
カウンターで知りあった在日3世の友人から「怒ってるばかりじゃ、しんどいから楽しいことしたい。こっちからメッセージを発信しようや」って話が出て、昨年7月「仲良くしようぜパレード」を大阪市の御堂筋でやりました。
やってみると、平和的な形で真正面から「国籍や民族の違いなどを理由に少数者を差別するのはよくない」って主張することには社会的な意味があると実感しました。参加者は約700人でしたが、ヘイトスピーチに反対する人がこれだけいるって示すことができたのは希望になります。
今年も7月に2回目をやり、参加者が1500人に倍増しました。性的マイノリティー(少数者)など多様な背景を持った人たちも参加し、ドラム隊、ヒップホップダンスもあって楽しくパレードしました。
―ヘイトスピーチが広がる背景には何があるのでしょう。
一つは、社会のあり方への不安や不満が背景にあると思います。いま個人が尊厳を持って生きるのがとても難しくなっています。エリートだっていつ首を切られるか分からないという不安定さがある。ずっと脅迫状を突きつけられているのと同じです。そんなストレスを受けるなかで他者への攻撃に転じる者が少なからずいる。社会的少数者や隣国をおとしめることによって、自己を保てると勘違いする人がいるんだと思います。
歴史認識の劣化
もう一つは歴史認識の劣化です。ヘイトスピーチを行う彼らに共通しているのは、日本の戦争を侵略と断罪した東京裁判を否定する歴史観です。「あの戦争は日本の自存自衛のためだった」と侵略戦争を正当化する日本会議の歴史観。安倍首相も本音は同じです。今回の内閣改造では日本会議の議員が大勢入閣しました。こういうことがヘイトスピーチを助長していると思います。
―克服の道をどう考えますか。
リベラル勢力が、がんばらないといけない。黙っていたら安倍首相は消費税だって10%に上げるんじゃないでしょうか。「安倍政権に任せていたらヤバイ」と考えている市民は相当いるはずです。また日本の将来を憂えている市民も多い。彼らが声を上げ始めれば事態は好転するのでは。しっかり考えて、それを行動に移す人がさらに増えていけば、どんどん変わっていくと思います。たたかいはこれからです。
聞き手・写真 内藤真己子
フェアな社会をぶち壊す存在
「東京大行進2014」を主催する TOKYO NO HATEのメンバー 木野寿紀(きのとしき)さん(32)
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―ヘイトスピーチの恐ろしさは。
多数部族フツ族が少数部族ツチ族を大量殺害したルワンダ虐殺(1994年)では、ラジオで「ゴキブリ」と呼ぶなどして、ツチ族への憎悪を扇動した例があります。いままさに在特会が「ゴキブリ朝鮮人」と口にしています。ヘイトスピーチは差別的な権力構造を背景にしているだけに、憎悪を扇動し、最悪、虐殺にもつながりかねません。
在特会のヘイトデモにたいして昨年2月から、抗議活動を始めています。ドイツのドレスデンでネオナチの集会を市民が大々的に包囲する抗議運動があって、それを日本でもやりたいと思い、いろんな人に呼びかけています。難しく考えなくても、あのヘイトデモを1度でも見れば、誰でも「これは何とかせねば…」と思います。フェアな社会をぶち壊しにする存在ですから。義憤というと偉そうですが、ヘイトデモがあまりにも醜悪なので「叱ってやろう」という感じで始めました。
―国連の人権委員会や人種差別撤廃委員会が日本にたいしてヘイトスピーチ規制に関する勧告を出しました。
“おかしな空気”
これまで何回も出されていたことです。今回、やけにニュースとして取り上げられたのは、私たちの強い抗議活動によって問題化してきたことがあります。数年前に比べ、これだけ反中・反韓が増えるなか、「おかしな空気になってきた」と世間が気付きはじめてきたことも大きいと思います。
在特会が、いくら特定の民族をあげて「殺せ」だの「出て行け」だのと言ってもいまの日本では合法です。公共の場で特定の民族や人種への大量殺りくや迫害を呼びかけるなど在特会のデモにしか適用されないような、非常に慎重な規制も考えられます。
ただ、ヘイトスピーチの規制だけがホットに論じられていますが、国連が日本に勧告しているのは、包括的に差別を禁止する法律をつくれということです。
日本では、就職で「在日はお断り」とか、不動産賃貸でも「イスラム教徒はお断り」といった差別があっても罰せられない。欧米であれば、消費者運動が起きたりして、社会的な制裁を受けます。
東京オリンピックも近いのに、いまのままでは“入れ墨が入ったニュージーランドの先住民の入湯はお断り”といった事態がおきかねません。包括的な差別禁止法のようなものが必要な段階だと思います。本来はそうした法律をつくることは恥ずかしいことです。差別を許さない社会であれば法律はいらないのですから。
―「東京大行進2014」の日程が決まりましたね。
差別のない世界
11月2日、新宿中央公園に集合し、差別反対を訴える大規模な意思表示行動を計画しています。今年のテーマは「差別のない世界を、子どもたちへ。」です。
在特会が朝鮮学校を襲撃した事件では、子どもたちに不眠など精神的な被害がでました。その一方で、大阪のコリアタウン鶴橋で「大虐殺」宣言をしたのは中学生でした。
子どもたちが多様性を尊重し、差別される側にも、差別する側にもなってはいけない。そういう日本をつくろうと呼びかけたいと思います。
聞き手・写真 竹原東吾
ヘイトスピーチデモ 特定の民族や国籍、宗教、性的嗜好(しこう)に対して、侮蔑的な表現でおとしめたり、差別をあおったりするような言動のこと。「在日特権を許さない市民の会」(在特会)のヘイトスピーチデモが国際的にも問題になっています。