2014年8月25日(月)
2014 焦点・論点
「原発の経済性」を問う
立命館大学教授(環境経済学) 大島 堅一さん
福島事故費用11兆円は国民負担 東電は破綻させ廃炉こそ“経済的”
原子力規制委員会が川内(せんだい)原発(鹿児島県薩摩川内市)の再稼働に「合格」をだしましたが、これをふくめて現在19基の原発の再稼働申請がでています。「原発のコスト」についての著書がある大島堅一立命館大学教授(環境経済学)に再稼働をめぐる経済性の問題について話を聞きました。
―電力会社が原発事故後も再稼働をすすめようとしていることを、どうみていますか。
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電力会社が再稼働に走るのは、事故を起こしたときに自らは損害賠償費用を払わなくてもいいという仕組みを政府がつくったことが大きい。福島第1原発事故の費用とは賠償や放射能の除染の費用などですが、これを東京電力が実質払わなくてもいい仕組みをつくりました。国民にはわかりにくいようになっていますが、税金を国費として投入することと、電気料金に上乗せするという二つのやり方をとっています。それで広く国民の負担にしています。
そういう制度をつくると、他の電力会社もいちばん心配な事故のリスクとそのためのコスト(費用)を負わなくてもいいことになる。だから早く再稼働をして利益を上げたくなる。
いま電力会社は火力発電を動かすとともに、原発を維持しています。原発の場合は動いていなくても燃料を水につけて冷却しなければならず、放っておくとどんどん施設が劣化するので、運転時の3分の2以上もの維持費がかかり、額は年1兆円以上にのぼります。動かしていない原発の維持費を国民は電気代として払っているのです。原発がいますぐ廃炉のプロセス(過程)に入れば維持費はいらなくなります。これは、電気料金が下がる方向に作用します。
―福島原発事故の社会的出費が「少なくとも11兆円」になるという試算を発表されました。消費税でいうと4%分以上の巨額ですね。
そうです。「福島原発事故のコスト」の表を見てください。(大島堅一・除本理史「福島原発事故のコストを誰が負担するのか」から、岩波書店『環境と公害』7月刊)
これは原発事故による現時点での費用が固く見積もっていくらになるか、それを誰が負担しているのかをあきらかにしたものです。大きくいって損害賠償費用、原状回復費用、事故収束・廃止費用、行政による事故対応費用から成り立っており、合計で少なくとも11兆円にのぼります。
この額は政府の報告書や東京電力の公式文書からつくっているので、誰がやってもこの額になります。原発は不透明な部分が多いので将来的に増えていくと思いますが、現時点での最新資料にもとづいて算出しました。
―これは誰が負担することになるのですか。
大部分が国民の負担です。東電が自力で賠償すらできなくなったため、「原子力損害賠償支援機構」(以下、支援機構)がつくられ、政府と東電の間に入っています。支援機構に政府が資金交付していますが、その原資は政府発行の交付国債で、銀行に国債を引き受けてもらい借金をして支援機構に渡している。「交付」は貸し付けるのでなく、簡単にいえば「あげてしまう」ものです。貸し付けではありません。
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東京電力は支援機構から賠償金の原資を受け取り、それを賠償に充てている。右から入れて左に出しているだけです。東電は11兆円のうち2兆円ほどは積み上げていますが、肝心の賠償と除染という根幹部分が税金から出ています。表面上は黒字というおかしなことになっている。これでは経営者に痛みがなく責任感も生まれません。
借金の元本の返済は電力各社が支援機構に払っている「一般負担金」を充てますが、この分は電気料金に含めて徴収していいと経済産業省が省令の変更で決めてしまいました。ここでも電気利用者、国民の負担になっているのです。
―なぜこんなことになっているのですか。
東京電力にたいして支援機構が仮に資金を貸し付けるとしたら、貸付額は5兆円、6兆円の巨額になってしまい債務超過に陥ります。それでは経営破綻してしまう。政府はそうしないために貸し付けでなく、「あげてしまう」交付にして東電を救済したのです。東電を生かし賠償の窓口を東電に負わせることで、国の責任をかわしているのです。この仕組みは民主党政権ではじまり、安倍政権で固められました。
いうまでもなく福島の被災者への賠償も除染も、生活と営業を完全に回復するために必要です。そのためには加害者・汚染者の責任で支払うことが基本です。公害や薬害でもそれが経済の原則です。東電には優良な資産がいっぱいあるのでそれらを売り払い賠償に充てる。さらに投資した銀行や株主にも責任を負わせます。法的に破綻処理すれば東電という企業はなくなるが、電気供給の事業は別のところで継承できます。
こうして事業者から出せるものはすべて出させる、それでも11兆円を超える事故のコストには足りないでしょう。そのときは国が「全部やればこれだけかかります」ということを国民の前にはっきりと出す、歴代政府が原発を推進してきた責任も明らかにして国民におわびをすることが必要です。そうすれば国民はいかに「原発が高くつく」のかがよくわかり、税金投入の是非を判断できるわけです。「原発は安い」などといって国民をだましてはいけません。
―再生可能エネルギーの固定買い取り制度導入(2012年)後の状況をどうみていますか。
変化が明らかに生まれています。制度運用の失敗とかほころびもあり、太陽光に偏っているなどの問題がありますが、大枠では成功に向かっています。省エネ・節電をすすめるとともに、再生可能エネルギーをテイクオフ(離陸)させることが必要です。
原発推進論者は、再生エネの先進国ドイツがいま電気料金で悩んでいるなどといいますが、「悩み」のレベルがぜんぜん違います。ドイツは再生エネ普及率が全電源の28%ですでに基幹電源になっています。普及率を50%以上にのばそうという国と、まだ1、2%の日本とではおとなと赤ちゃんほどの違いがあります。
5月の大飯原発再稼働差し止め訴訟の福井地裁判決は、人間の生存を基礎とする人格権が憲法上最高の価値をもち、原発の稼働という経済活動の自由はその劣位にあるといいました。福島原発事故の現実をふまえたこの判決をしっかり受けとめ、原発はすぐやめるべきです。いま廃炉のプロセスに入ったほうが傷口が広がらず、ずっと経済的なのですから。
(聞き手・山沢猛)