2014年7月22日(火)
2014 とくほう・特報
認知症行方不明 現場から考える
情報を公開・共有して捜すしくみを
認知症で行方不明になったお年よりが1年間に1万人を超えて、社会問題となっています。65歳以上の約6人に1人、462万人が認知症と推計される高齢化社会。だれもが直面しうる深刻な問題に、地域は、行政はどう向き合うのか―。 (西口友紀恵、内藤真己子)
警察庁によると、12〜13年の認知症行方不明者の届け出中、今年4月末でなお所在不明は258人。それ以前については、明確にされていません。
“元気な人”の延長で起きている
認知症で行方不明になって警察に保護されたときの状態は、健常と認知症との「グレーゾーン」20%、「発症期」43%。
認知症高齢者の行方不明者の実態を検証した、北海道の「釧路地域SOSネットワーク」の調査結果です。行方不明は、元気に見える人の日常の延長で起きていることが分かります。
2013年に警察庁が行方不明の届け出を受理した「認知症またはその疑い」のある高齢者数は1万322人。
警察庁によると、認知症の行方不明者の約98%は1週間以内に見つかっています。「早期対応、早期発見が大事」としています。しかし、警察が実際に捜索活動をするかどうかは、“事件性”など「現場でそのときの状況に応じて判断」(警察庁)してきました。
一方、警察が保護したものの身元不明の例も増えています。その場合、24時間以内に身元が分からないと市町村に引きつぐしくみです。その後施設などで何年も身元不明のまま暮らす人もいて、深刻な問題です。
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認知症介護研究・研修東京センターの永田久美子研究部長(写真)は、その理由として次のように指摘します。▽警察、高齢福祉、生活保護、施設担当など多様な部署が自治体をこえて関わる場合が多い▽各部署が守備範囲の仕事に尽力するものの「本人が家に戻れること」を共通目的に、情報を共有し協力して捜すしくみが整っていない―。
「情報が非公開で、捜している家族の声が埋もれ、社会から忘れられてきた」ことも行方不明解消を阻む一因といいます。情報を開示し、捜している家族らが情報をたどりやすくするなど「当事者に役立つしくみづくり」が重要だといいます。
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「安心して徘徊できる町」に 福岡・大牟田の実践
認知症高齢者の行方不明を未然に防止する取り組みが各地で始まっています。なかでも全国から注目されているのが、福岡県大牟田市の「安心して徘徊(はいかい)できる町」づくりです。
7月の平日午後、豪雨のなか、高齢者の援助をおこなう市内の地域包括支援センターに緊張が走りました。「62歳女性。歯医者に行くといって帰らない」。同市の「ほっと安心(徘徊)ネットワーク」が発動されたのです。「捜査要請に備え待機してください」。管理者の坂井敏子さん(54)が職員に指示しました。
メール配信
情報は介護事業者や民生委員、JR、郵便局、JAなどに配信。約4500人の市民にもメールで流れます。
JR大牟田駅は「情報がくればトイレやホームなど構内を点検し、改札でしっかり見ています」。大牟田タクシー協会では、タクシー無線で運転手に伝える会社もあります。「患者さんが降車された直後に通報が入り、早期発見に役立ったこともあります。24時間稼働しているタクシーが地域の役に立てれば」と同協会の猿渡英次事務局長。
同県南部の12市や隣接する熊本県の市町とも連携しています。同日午後3時すぎ「無事発見」の情報が流れました。
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見守る地域
ネットワーク発動件数は月2件程度ですが、保護数はその5〜7倍に上ります。同市の井上泰人長寿社会推進課長は、「徘徊している方が市民に声をかけてもらえる町づくりが一番重要です」。
大きな役割を果たしているのが年1回の「徘徊模擬訓練」です。徘徊役がゼッケンをつけて市内を歩き、住民が声をかけて通報します。昨秋は2000人以上が参加しました。
全日本民主医療機関連合会加盟の、みさき病院も参加。徘徊者役を務めた同病院の金栗健一さん(37)=介護福祉士=は「多くの子どもたちが声をかけてくれました。コンビニでは店員が買い物を助けてくれ、地域が変わったと感慨深かった」。
同市では小・中学校で認知症の支援のあり方を学ぶ「絵本教室」も行っています。全市をあげた取り組みで、商店や住民が認知症の人の見守りに協力することも。市内中心部の総菜店の店員(61)は、「忘れて1日に何回も買い物に来る方には『さっき買われましたよ』と声をかけます。人ごとじゃないですから」
認知症の妻がグループホームに入所している城台巖さん(98)は「妻は買い物に行ったのに品物を持って帰らないこともありました。町の人に協力してもらうことは大切です」。
国の対策は 市町村の役割は…
「行方不明対策は誰もが暮らしやすい町づくりの推進力になります」。こう指摘するのは、さきに紹介した永田さんです。
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行方不明対策は、日頃からの未然防止、早期の通報・発見、保護した後の本人・家族への支援策が不可欠だと話します。市町村の役割が大きいとして、「わが町で行方不明者を出さない、安心して外出できる町をつくる方針を各市町村がまず掲げることが肝心です。市民一人ひとりが、関心をもち、普段の見守りや小さな支えあいを増やしていくこと」を提言します。
大牟田市の場合、さまざまな取り組みを推進するのが「認知症コーディネーター」養成研修を受けた専門家です。デンマークをモデルに、市が独自に2003年から開始。2年間の研修を積んだ介護・医療従事者は95人を数えます。
事業の中心的な役割を果たしてきた、グループホームふぁみりえホーム長の大谷るみ子さん(56=写真)は、「行政と民間事業者、地域住民との協働を進めてきた」と話しながら、次のように指摘します。「高齢化社会を迎え、認知症を支える取り組みは、どこの町でも優先されるべき課題です」
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みさき病院の田中清貴院長(46=写真)は、国の対応について指摘します。「診療報酬をとっても国の認知症対策は弱い。取り組みも自治体まかせで、ボランティアに頼る部分が多いのが実情です。国は予算も含め認知症対策を充実させるべきです」