2014年7月21日(月)
主張
リニア国交相意見
無謀な計画を後押しする異常
JR東海がすすめるリニア中央新幹線計画の環境影響評価(アセスメント)で、太田昭宏国土交通相が、推進のお墨付きを与える意見を公表しました。自然豊かな南アルプスなどを長大トンネルで貫く巨大事業であるリニア計画には、住民や自治体、自然保護団体から異論や見直しを求める声が相次いでいます。環境省も「相当な環境負荷が生じる」と指摘していました。形ばかりの「配慮」を求めただけで、逆に「国際競争力の強化に資する」と計画を賛美し後押しする国交相の意見は異常です。
実験線ではすでに被害
リニア中央新幹線は東京(品川)―大阪間の8割以上を地下トンネルで結ぶ、未曽有の巨大プロジェクトです。国の年間公共事業費をはるかに上回る9兆円超の総事業費は全額JR東海がまかなうとはいえ、利用者数見込みの甘さなど採算面の疑問が相次いでいます。新幹線とまったく異なる超電導磁石という新技術で車体を浮かせ、運転士不在で最高時速505キロの猛スピードで走行させることに安全面の懸念も広がっています。
ところがJR東海は2027年の品川―名古屋の開業へ向け今秋着工へ準備を加速させています(大阪までは45年開業予定)。今回の国交相意見を受け評価書を補正して工事実施計画の策定に入り、8月にも国に申請する構えです。安倍晋三政権は「成長戦略」にリニア計画を明記し、“国家事業”に格上げする姿勢を強めています。
この“暴走”に大義も道理もありません。6月に環境省が国交省に出した意見は、リニア計画自体の中止は求めませんでしたが、「生態系に不可逆的な影響を与える可能性が高い」「事業の実施に伴う環境影響は枚挙にいとまがない」と警告し、リニアが大量の電力を消費することも「これほどのエネルギー需要が増加することは看過できない」と指摘しました。国交相意見は、これらの問題を抜本的に解決する方向はありません。
大問題の一つが、工事で排出される膨大な残土です。掘り出される土などの量は東京ドーム約50杯分という規模です。ところがJR東海の計画は、残土の8割の処分先は未定です。沿線7都県(東京、神奈川、山梨、静岡、長野、岐阜、愛知)のうち処分場が公表されたのは静岡などの一部だけです。処分場の残土が植生を破壊し、土砂崩れなどを引き起こす危険も払拭されません。
地下水系を横切るトンネル工事による河川などへの深刻な影響も心配されています。実際、実験線のある山梨県内では、地下水や流水の枯渇・減少・水位低下がすでに広範囲に発生しています。実験線の地上部分の激しい騒音にも怒りの声が上がっています。実験線周辺という限られた場所で、すでにこれだけ深刻な被害が出ていることを直視すべきです。
中止の決断こそ必要
南アルプスに長さ約20キロメートルのトンネルで大穴を開ける計画は、まさに無謀です。希少動植物も生息する一帯を1日最大1700台以上の車両が行き来する工事が何年も続くこと自体、重大な自然破壊です。もともとリニア計画は国民の要求から出発したものではなく、国会でもほとんど検証や議論もされていません。大企業のもうけのために貴重な自然を犠牲にするリニア計画は中止すべきです。