2014年7月11日(金)
2014 焦点・論点
「閣議決定」 若者は抗議する
安倍政権の集団的自衛権行使を容認する「閣議決定」(7月1日)に対して、若者の行動が広がり続けています。6月30日、7月1日には、若者を中心に数万人が首相官邸前で怒りの声を響かせました。抗議行動をよびかけた、「怒りのドラムデモ」の井手実(みのる)さん(34)、「特定秘密保護法に反対する学生有志の会(SASPL)」の奥田愛基(あき)さん(22)はどんな思いでよびかけたのでしょうか。2人にインタビューしました。 (土田千恵、前田智也)
星座のようにつながりあい 声あげる
「怒りのドラムデモ」
井手 実さん(34)
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国民の反対の声を無視した原発推進。強引な秘密保護法の成立。そして解釈改憲による集団的自衛権行使容認の閣議決定。あまりにやり方がおかしい―。怒りがだんだんと積み重なり、集団的自衛権の閣議決定を前後した6月30日、7月1日の官邸前抗議行動では、純粋な怒りを訴えたくて「安倍政権打倒」を掲げました。
自民党政権は、第1党だからとおごり、自分たちの都合のいいようにやっている。そこに「主権者は俺たちだ」「国民の言うことを聞け」ということを突きつけたい。私たちの世代、これからの若い世代は、そういう日本をつくっていかないといけないと思います。
次の動き育つ
官邸前には若い人たちが予想以上にたくさん来てくれました。7月5日、3回目の「安倍政権打倒 怒りのドラムデモ」(東京・新宿駅周辺)を、反射的に決行しましたが、このときも若い人たちが集団的自衛権や、安倍政権に純粋に怒っていた。希望だと思います。デモには抗議の側面はもちろんありますが、いろんな人が出会い、次の動きが育つ場所でもあるんです。
「怒りのドラムデモ」は最初は「反原発」で行動してきました。ですが、金曜首相官邸前の首都圏反原発連合の抗議や、2013年から活発化したヘイトスピーチに抗議する人たちと交流ができ、問題意識を共有して、参加しあったりするようになります。
その後、秘密保護法が公聴会、国会周辺での市民の猛烈な反対を押し切り、強行されます。「この人たちは手続きからしておかしなことをする」と不信感が大きくなりました。
このとき、私たちと、ヘイトスピーチに抗議する人びとが抗議の場に合流していきます。そこにさらに、秘密保護法から反対の行動をし始めた人びとが加わります。
そして、集団的自衛権行使容認では、解釈改憲というやり方に対しても、平和憲法をかえるという内容に対しても、政権に対する不信感は高まります。
最初は違う問題で行動していた人びとが、今では星座のようにつながりあい、関わりあって、「安倍政権打倒」で一緒に声をあげている。これからは、さらに消費税増税、TPP(環太平洋連携協定)や雇用の問題にもつながっていくだろうと思います。
可視化の場に
私はデモに抵抗がありました。だからこそ、その抵抗感を克服する私たちのやり方をつくりながら、今までの運動と合流していくことで、さらに裾野を広げていきたいと思います。デモを、街の人に今の政治のおかしさを伝えるきっかけ、怒っていいのだということを、可視化する場にしたいと思っています。だから多様な層がいる新宿の街に出てデモをしたり、意思表示をし、かっこいいTシャツをつくったり、「憲法壊すな」「安倍はやめろ」などシンプルな怒りを表すデモを心がけています。
私は安倍政権は打倒できると考えています。
原発推進、沖縄の辺野古基地移設、秘密保護法強行を、十分な議論もせず官邸の意向だけで推し進めてきた。そして世論的にもおかしいという下地ができつつある。土台も固めず、国民の理解も得られない政権が長く持ちこたえられるわけがない。
ヘイトスピーチ(憎悪表現) 在日朝鮮人や韓国人、中国人などに対して「殺せ」などと侮蔑的な表現でおとしめたり、差別をあおったりするような言動。
これで終わりじゃない むしろ始まり
「特定秘密保護法に反対する学生有志の会(SASPL)」
奥田 愛基さん(22)
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僕たちは「秘密保護法に反対する学生有志」なので、集団的自衛権の行使容認に反対する行動に賛同するかどうか、みんなで悩みました。
初めての光景
結論としては、今回の閣議決定による事実上の解釈改憲は、憲法で定められているプロセス(手続き)を無視し、立憲主義の理念に反していて、集団的自衛権の是非の手前からおかしい。僕らが秘密保護法に反対する理由と同様に「国民が議論を求めている段階なのに勝手に決めるやり方はおかしい」という思いから、抗議行動に賛同しました。
集団的自衛権の行使容認は、日本が戦争に巻き込まれる可能性を高めるだけでなく、国際社会全体の緊張を激化させるなど、数多くの問題点を含んでいると考えています。
首相官邸前での抗議行動で印象的だったのは、午後8時を過ぎても続々と学生が官邸前に集まり、同世代が最前列で抗議をしていたことです。今まで見たことがない光景でした。多くの人が関心を持って、行動するようになった。それがうれしかったし、僕自身驚きました。
秘密保護法や集団的自衛権の問題で、今まで政治や社会にあまり関心がなかった人もたくさん集まってきているのは、原発などさまざまな問題で、僕らより上の世代の人たちが中心になって、継続的に頑張ってきたことが大きいのではないかと思います。
誰だって「戦争はダメだ」と思っていますし、何より「勝手に決めるな」という思いが共通しているから、共感がインターネットでも広がったと思います。
僕自身の気持ちを変えた決定的な出来事は、昨年12月の秘密保護法に反対する国会周辺のデモでした。それまでは、原発についても心のどこかで「声を出さなくても原発はなくなる」と考えていました。その後、安倍政権が前政権の「原発ゼロ」方針を撤回したときは正直がっかりしました。
ちゃんと声に
でも、秘密保護法成立の乱暴で強引なやり方を目の当たりにして、ダメなことには「反対だ」とちゃんと声に出していわなければいけないと変わりました。
今回、集団的自衛権の行使を容認する「閣議決定」を強行されたときは不思議と落ち込みはなかったです。良くない方向に進んではいるけど、これで終わりじゃない、むしろ始まった気がします。「じゃあ僕らはどうするのか」と考えるようになりました。
官邸前の抗議行動で、「安倍はやめろ」のコールがわきおこりました。僕は特定政党や個人の批判はしないと考えていました。でも、今までの安倍首相の行動を見ていたら、政治的立場がどうあれ、立憲主義はもちろん、「自由民主」主義すら否定しているし、国民をバカにしているとさえ感じています。国民が「安倍さんはやめるしかない」といわざるを得ない状況になったんだと思っています。
今後は、学生だけではなく学者の方などと協力して運動を大きくしていきたいと考えています。インターネットなどで情報発信しやすい行動にして、日常的に社会のことを考えていけるようにしていきたい。