2014年6月30日(月)
主張
カジノと成長戦略
頭を冷やして考え直すときだ
安倍晋三内閣が閣議決定した「改訂成長戦略」にカジノ解禁が盛り込まれました。社会の風俗を害する行為として刑罰で禁じられている「賭博」の合法化です。
そんなものが政府の経済政策の柱として大真面目で論じられること自体、あまりにも異常です。
“震源地”の安倍首相
これまで、カジノ合法化の前面に立ってきたのは、自民、民主、維新、公明、みんな、結い、生活と無所属の議員でつくる超党派カジノ議連(国際観光産業振興議員連盟)でした。国会に提出され、継続審議になっているカジノ合法化法案も、自民、維新、生活などの有志議員の発議によるものです。
ところがここにきて、カジノは、「アベノミクス」と呼ばれる安倍内閣の経済政策の目玉の地位を占めるにいたっています。
安倍首相は5月30日、訪問先のシンガポールでカジノ施設を視察した後、「(カジノは)日本の成長戦略の目玉になる」と発言。今月24日には米メディアのインタビューに答え、カジノ合法化法案は「既に審議がスタートした。次の臨時国会で、これは議員立法だが、成立を目指している」とのべ、カジノ解禁へ、なりふり構わぬ姿勢です。
「改訂成長戦略」では、カジノは「観光振興、地域振興、産業振興等に資する」と推進の立場を明確にしたうえで、「犯罪防止・治安維持、青少年の健全育成、依存症防止等の観点から問題を生じさせないための制度上の措置の検討」を行うといいます。そんなことが本当にできるのでしょうか。
カジノ推進派は、「政府の厳格な管理の下で行えばカジノから得られる利益は弊害より大きい」と幻想をふりまきます。「カジノ警察をつくる」、「カジノの納付金の一部を依存症対策に充てる」といった具合です。
しかし、そうした具体的な規制策や弊害への対策はすべて、カジノ合法化法成立後1年以内に、政府の責任で整備する「実施法」段階に先送りされています。空手形をふりだしただけで、白紙委任のようにカジノ合法化だけを決めさせてくれというのは、あまりに乱暴なやり方です。
日本は国民が1年間に5兆6000億円賭博で負ける、たいへんなギャンブル大国です。パチンコという賭博が「遊技」を名乗って日常的に開かれ、世界で稼働している賭博機の6割が密集している特殊な国です。ここにカジノという、最も危険で、人をのめりこませる新たな賭博場をつくることが許されるのか。国の針路にかかわる重大な問題です。
カジノ議連が「日本のカジノのお手本にする」というシンガポールでは、開業から4年で自己破産者が急増しました。カジノ入場禁止を申し出た人も20万人を超えたといいます。こうした負の側面をことさら軽視し、まともな検証もなくカジノを合法化するなど、国の行く末を誤らせる暴挙です。
人を犠牲に目先の「利益」
賭博は負ける人を犠牲にし、特定の者がもうけをはかろうとするものです。目先の利益さえ見込めるなら、多くの人の苦しみなど度外視するというのでは、まともな政治とはいえません。社会を壊し、国民のくらしを苦しめるカジノ合法化は、きっぱり断念すべきです。