2014年6月22日(日)
主張
成長戦略改訂素案
企業が稼げば生活よくなるか
「企業の『稼ぐ力』の向上は、これからが正念場である」―。安倍晋三政権が24日にも決める「日本再興戦略」(成長戦略)の改訂に向け、榊原定征(さだゆき)経団連会長ら財界代表が参加した産業競争力会議がまとめた素案は、あまりの露骨さに驚きと怒りがこみ上げてくるものです。「稼ぐ力」の向上とは、大企業にもっともうけさせるということです。大企業がもうけても、国民の暮らしや経済がよくなる保証はありません。企業の「稼ぐ力」を政府の成長戦略の目玉とし、大企業がもうかりさえすればいいというのは、危険な戦略です。
まったくのごまかし
近代経済学には「供給力重視」の立場をとる考えはありますが、企業の「稼ぐ力」がすべてだという露骨な主張はほとんど聞いたこともありません。安倍政権は「アベノミクス」と称した自らの経済政策で、「世界で一番企業が活躍できる国」をめざすと主張してきましたが、企業の「稼ぐ力」を向上させるというのは、それをさらにあからさまに推進するものです。
企業がもうかりさえすれば国民の暮らしや経済がよくなるという「トリクルダウン」の考えがまったくのごまかしであり、間違いだというのは国民がすでに体験ずみです。日本の大企業は労働者の賃金を抑え、正規雇用を減らして安上がりな非正規の雇用を増やし、下請けの中小企業の単価は買いたたいて、大もうけを続けてきました。税金もまともに払わず、ためこんだ内部留保は決算上位の1000社だけでも昨年1年間で23兆円も増え、今年3月末で313・6兆円にものぼっています(本紙8日付)。大企業のもうけと内部留保を使って賃金と下請け単価を引き上げ、企業に社会的責任を果たさせることこそ正念場です。
安倍政権の「日本再興戦略」は、第2次政権発足後、「第1の矢」の金融緩和、「第2の矢」の財政出動と並んで、「第3の矢」の成長戦略として持ち出したものです。「企業の『稼ぐ力』の向上」をあからさまに掲げた今回の改訂素案は、政策の中身も従来以上に露骨です。
財界・大企業が強く要求した法人税の改革は、「数年で法人実効税率を20パーセント台まで引き下げる」ことが明記されました。「日本再興戦略」とともに閣議決定する経済財政運営の基本方針(「骨太の方針」)にも盛り込まれる予定です。
焦点となった労働法制の改革では、現在の「週40時間1日8時間」の労働時間規制を破壊する「時間でなく成果で評価される制度」を創設することを盛り込んでいます。まさに「残業代ゼロ」「過労死促進」の押し付けです。
医療の所得格差を広げる混合診療の大幅拡大、企業参加を広げる農業生産法人の要件緩和、原発や新幹線などインフラ輸出への首相などの「トップセールス」の積極実施など、大企業のもうけの機会拡大へなりふりかまわぬ姿です。
大企業野放しの危険
「再興戦略」がめざす大企業の「稼ぐ力」の向上が、大企業に野放しの自由を認め、文字通り「弱肉強食」の経済を復活させることになるのは明らかです。
大企業の「稼ぐ力」を持ち出し、企業のもうけを増やすことしか念頭にない「再興戦略」など安倍政権の「アベノミクス」に、国民の暮らしも日本経済も、もはや任せられないことは明白です。