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2014年5月14日(水)

2014 とくほう・特報

シリーズ いのちの現場

要支援160万人向け訪問・通所介護を国が丸投げ 医療・介護総合法案

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 医療・介護総合法案では、要支援1、2と判定された160万人向けの訪問介護と通所介護を介護保険給付から外し、自治体にボランティアなどをつかってやらせようとしています。しかし丸投げされる自治体からは「受け皿がない」「サービスが低下する」と苦悩し反発する声が上がっています。自治体の姿を追いました。(内藤真己子)


「担い手いない」「認知症ケア無理」自治体苦悩 対応可17%

意見書続々

 「『要支援外し』は、早期発見・早期対応の認知症ケアの原則に反する」。奈良県天理市(人口6万7000人)では昨年12月、市議会がこんな意見書を全会一致で可決しました。一定所得者の利用料を2割負担とすることにも、「生活への不安」をあおると、1割負担の堅持を求めています。

 同市議会の大橋基之議長は語ります。「認知症の叔母を引き取って介護した経験からも初期の対応が大切だと感じます。適切な援助がなくなれば認知症は2倍3倍のスピードで進んでしまう。ボランティアでは対応できません」。そして「要支援者の保険サービスを取り上げたら、生活のリズムが崩れ、介護している家族に大きなしわ寄せがいき問題が起こることも考えられます」と話します。

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(写真)介護保険改悪反対などの自治体意見書の束

 北海道は、道議会をはじめ3分の1を超える自治体が意見書を可決しています。摩周湖で有名な観光と酪農の町・弟子屈(てしかが)町(人口約8000人)もその一つです。

 徳永哲雄町長は「要支援の方を保険給付から切り離し、市町村事業にするのは反対です」と明言します。

 「国はNPOやボランティアを受け皿にといいますが、地域にはそれほどは存在しません。既存の事業者に委託するにしても予算に上限が設けられるように聞いており、単価を低くしなければなりません。それでは介護の担い手が定着せず人口減少に拍車がかかります。一般財源の投入も厳しい」。町長は自治体の財政力による介護サービスの「格差」も懸念します。


受給権侵害

 中央社会保障推進協議会が昨年末行った自治体アンケートでは、要支援者の自治体事業への移行について「可能」と答えた自治体はわずか17・5%にとどまりました。

 東京都市福祉保健部長会は昨年11月、厚労省に「介護保険制度改正に対する緊急提言」を提出。「要支援と認定されても必ずしも保険給付を受けられるとは限らず、受給する権利が不明確になる」と強く批判しました。

 部長の一人は言います。「政府は自治体事業に移管することで年間3%程度の給付抑制になるとしているが、後期高齢者の増加が緩やかな自治体では5%以上の抑制となる。そうなれば既存事業所への委託単価の切り下げだけでなく、ボランティアの活用が迫られる。サービスの質が担保できるのか問題だ」

めど立たず

 東京都世田谷区は、要支援者の訪問介護の受け皿として無資格の「ボランティア等」による「家事援助サービス」を今秋から実施する計画です。買い物や掃除など基本的に30分以内で、利用料は1回500円。委託料は1回1000円です。13法人に委託を打診していますが、全区域での実施のめどが、まだたっていません。

 同区内で訪問介護事業所を経営する辻本きく夫さん(63)は話します。「ヘルパーは賃金水準があげられず、人材不足が深刻です。さらに報酬が安い有償ボランティアに人が集まるとは思えない。区内の要支援の訪問介護利用者は約3000人。とてもカバーできませんよ」


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(写真)新婦人世田谷支部の「むかごの会」で作品を手にする人たち

 通所介護の代替と考えられているのは、同区社会福祉協議会に登録したボランティアが行う「支えあいミニデイ」などです。自分で会場まで来ることができる人が対象。月2回以上の開催が条件で、利用者1人につき1回250円の補助が出ます。

 「ミニデイは送迎もなく、要支援の人を受け入れることは想定されていません」と語るのは、新日本婦人の会世田谷支部が行うミニデイ「むかごの会」の世話人の一人、浅井聖子さん(75)。同会では手作りの昼食の後、ちぎり絵や「脳トレ」などで過ごします。

 12年前から関わっている浅井さんは訴えます。「世話役の私たちも70代半ばになり利用者側に回りたいくらいです。でも50〜60代のボランティアが見つかりません。ここでは粗相をしても着替える場所もありません。要支援の方の通所介護の受け皿にしようだなんて、乱暴なやり方ですよ」


重度化・孤独死の危険高まる

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 石田一紀京都女子大学教授(生活福祉学)の話

 政府は、要支援者は「軽度」だから保険から外しても大丈夫かのように言いますが、あまりにもでたらめで怒りに堪えません。

 もともと2006年の介護保険改悪で、「要支援1、2」がつくられ、要介護1の6割が要支援2に切り下げられました。

 さらに2009年の要介護認定の見直しで、軽度判定が出るように認定システムを変えています。

 要支援者のなかには、認知症の人や視覚・聴覚障害者など緊急に専門的支援が必要な人が少なからず含まれています。閉じこもりなど援助を拒否する人も多く、熟練した介護職員が繰り返し訪問するなかで心を開き、援助につながる例も少なくありません。そのような支援はボランティアにできるものではありません。

 しかも政府は自立を支援し重度化を防ぐと言って「要支援者」向けサービスをつくったはずです。保険外しは道理がありません。

 要支援者の保険外しは、かろうじて支援につながっていた人を孤立させ、自立した生活を奪うものです。重度化が進み、孤独死の危険も高くなります。


専門家の援助こそ必要

デイセンター「すばるの家」東京・台東

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(写真)真剣なまなざしで体操する「すばるの家」の人たち=東京都台東区

 「血圧や体温を測ってもらえ安心です。ここには専門家がいますからね」というのは91歳の女性。東京都台東区の「デイセンター すばるの家」に週2回通っています。法案が成立すると通所介護を利用できなくなる可能性があります。

 所長の稲垣紀美子さん(73)は「要支援者へのサービスは、状態の改善と悪化の予防が目的です。専門職が関わり本人の意欲を引き出すことで自立した生活を可能にするというものなのに、ボランティア任せでは予防給付の目的が果たせません」と批判します。



 医療・介護総合法案 介護保険では、要支援1、2の給付外しのほか、特養ホームの入所対象を原則「要介護3以上」に制限する―などが盛られています。医療では、「病床機能報告制度」を新設。一般病床を四つの機能に分け、機能別に病床数をコントロールして削減していく権限を都道府県に与えます。


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