2014年2月3日(月)
主張
NHK会長の暴言
かばい続ける政府の責任重大
女性の人権を踏みにじった日本軍「慰安婦」の問題を、「戦争しているどこの国にもあった」などと弁護した籾井(もみい)勝人NHK会長の発言は、歴史的にも国際的にもなりたたない暴言として批判を広げています。籾井氏は“謝罪”しましたが、発言の責任を明確にしていません。しかも見過ごせないのは、籾井氏を起用した責任が問われる安倍晋三政権が、「個人的な発言」(菅義偉官房長官)などとかばいたて、逆に「政治的圧力に屈することなく、中立公正な放送を続けてほしい」(安倍首相)と激励していることです。
個人的発言ですまない
籾井氏の発言が「個人的発言」ですまされないのは明らかです。
発言はNHK会長としての公式の就任記者会見(1月25日)でのものです。籾井氏は、公式な記者会見で「個人的」な見解を発言したのは不適切だったと“謝罪”しました。しかし、発言は国民の受信料で賄われる公共放送の会長が、日本軍「慰安婦」のような制度は「どこの国にもあった」などというとんでもない認識の持ち主だということを明らかにしたものであり、「個人的発言」というだけで責任はあいまいにできません。
1月31日の参院予算委で追及された籾井氏は、「慰安婦」発言を含め、記者会見でのすべての発言を「個人的発言」だとして取り消すといいましたが、公的な場での自らの発言に一切責任を持たないとは、情けない限りです。NHK会長としての資格はいよいよないといわなければなりません。
実際、籾井氏は“謝罪”したといっても、発言自体が間違っていたと認めたわけではありません。視聴者に「誤解」を与えたともいっていますが、誤解した側が悪いというふうにも聞こえます。籾井氏が発言の責任を明らかにするには、発言が間違っていたことを明確にすることが不可欠です。
朝鮮半島などから女性を連行し、「慰安所」に閉じ込めて性行為を強制した日本軍「慰安婦」のような行為に、軍が組織的、系統的に関わったのは日本とナチス・ドイツ以外に例を見ません。それを籾井氏は「どこの国にもあった」と弁護し、しかも戦後の公娼(こうしょう)制度などと同列視したのです。いったい籾井氏は、ことばに尽くせない非人間的な取り扱いを受けた元「慰安婦」などの訴えに耳を傾けたことがあるのか。籾井氏に報道機関であるNHK会長としての資格がないのは明らかです。
菅官房長官や安倍首相がその籾井氏の発言をとがめるどころか、「圧力に屈するな」などと“激励”しているのは、まさに黒を白といいくるめるものです。籾井氏が発言を批判されるのは自らの責任であり、外部の「圧力」などではありません。それなのにそれに耳を貸すなというのはまさに開き直りのすすめであり、言語道断です。
加害を被害にすりかえる
安倍首相はかつて、首相や閣僚の靖国神社参拝に対する内外の批判に逆らって、「どんな脅かしにも屈しない」などと発言したこともあります。加害と被害をすりかえるのは安倍政権の常套(じょうとう)手段です。
籾井氏は安倍政権が任命した首相に近い委員を含むNHK経営委員会に選ばれて会長に就任しました。安倍政権が籾井氏をかばい続けるなら、政権自体への責任追及がいよいよ免れなくなります。