2013年11月14日(木)
秘密保護法案 NSC設置法案
研究の妨げ
宇宙・原子力・病原体…
先端技術の軍事転用拡大
「秘密保護法案」が成立すれば、宇宙分野などさまざまな先端技術が“安全保障研究”に取り込まれ、大学や研究機関、民間企業の研究が「特定秘密」に指定される可能性があります。科学者や技術者が、家族を含めた身辺調査の対象にされることや、論文発表など研究の自由の制限、原発や食品安全など国民生活にかかわる分野の情報まで秘密にされることが心配されます。(中村秀生)
政府が設置した「秘密保全のための法制の在り方に関する有識者会議」の報告書(2011年8月)は、独立行政法人などによる人工衛星や大量破壊兵器に転用可能なロケット技術の情報も法制の適用対象にするのが適当だと明記しています。
JAXAも
核兵器やミサイル技術に結びつく宇宙・原子力分野では、宇宙航空研究開発機構(JAXA)や日本原子力研究開発機構などの独立行政法人の研究が適用対象とされる恐れがあります。内閣官房が運用し防衛省や公安調査庁などがデータを利用する軍事スパイ衛星(情報収集衛星)にはJAXAのほか情報通信研究機構もかかわっています。適用されれば、委託を受ける機器メーカーなどの事業者も特定秘密を扱うことになります。
JAXAの事業ではほかに、準天頂衛星(GPS=全地球測位システムの補強・補完)の関連技術、広域・高分解能観測技術衛星(海洋監視など)、超低高度衛星技術試験機(低軌道化による監視能力向上)、新型基幹ロケットの開発計画なども、「安全保障」にかかわる技術として進められています。
一方、武器開発と直接関係のない基礎研究を含む多くの先端研究が、軍事転用と無関係とはいえません。外為法によって、大学や研究機関で、国際的な情報交換や試料提供、留学生の指導などが規制されている分野は15テーマ、214項目にのぼります。ロボット、真空ポンプ、無人航空機、半導体基板、超電導電磁石、水中探知装置、細菌製剤用製造装置などさまざまです。
防衛省も、大学などの先端技術に注目し、軍事転用にむけた取り組みを進めています。例えば、これまでに防衛省技術研究本部と大学や研究機関などとの技術交流が14件、締結されています(別表)。ほかにも防衛大学校との共同研究や連携を行っている研究機関もあります。そうした事業にも適用が広がる可能性も否定できません。
有識者会議の報告は、大学なども行政機関から事業委託を受ける場合には、特別秘密の保全義務を課すことも許容されるとともに、自ら作成・取得する情報も適用対象とするのが適当だとしています。
成立に反対
NTT研究所で衛星通信技術の開発に携わった長田好弘・日本科学者会議東京支部科学委員会委員長は「秘密保護法案とTPPは、関連が深いと考えている。これらによって原発の安全管理・廃炉、食の安全や環境基準などの情報も隠されて、国民に開かれた自由な議論ができなくなる。国民の利益に沿った自由な学問研究や技術開発が脅かされ、軍事産業で労働者のためのルールが守られなくなることも心配だ。法案を成立させるわけにはいかない」と話します。
防衛省技術研究本部の国内技術交流の協力相手(カッコ内はおもな技術分野や内容)
【独立行政法人】
宇宙航空研究開発機構(赤外線センサ技術、耐熱複合材料技術、ヘリコプタ技術)
理化学研究所(化学剤遠隔検知技術)
情報通信研究機構(高分解能映像レーダ技術)
海上技術安全研究所(艦船)
情報処理推進機構(情報セキュリティ)
【大学・学校】
九州大学(即製爆発装置対処技術)
慶応義塾(キャビテーション現象の解析など)
横浜国立大学(無人小型移動体の制御アルゴリズム)
東洋大学(生体信号処理技術)
東京工業大学(パワーアシスト)
帝京平成大学(生物剤検知システム)
帯広畜産大学(同)
【その他】
東京消防庁(ソフトウェア無線機を用いた中継)