2013年2月16日(土)
有識者会議 NSC設置へ初会合
今国会中の法案提出狙う
政府は15日、軍事・外交政策の司令塔となる国家安全保障会議(日本版NSC)の設置に向けて、有識者会議の初会合を首相官邸で開きました。政府は会議の意見を4月中にもまとめ、設置法案を今国会中に提出することを狙っています。
メンバーは安倍政権の外交指南役を務める内閣官房参与の谷内正太郎元外務事務次官をはじめ、増田好平元防衛事務次官、漆間巌元警察庁長官ら13人。3人はいずれも第1次安倍政権時に外務・防衛・警察の事務方トップを務めた人物です。議長は安倍晋三首相自らが務めます。(別項)
首相は初会合のあいさつで、中国の海洋進出や北朝鮮の核・ミサイル開発などを念頭に「わが国を取り巻く安全保障環境は厳しさを増している」と指摘。「外交・安保の司令塔を設置し、政治の強力なリーダーシップで迅速に対応する」と述べ、NSC創設は急務との認識を強調しました。
日本版NSCは、第1次安倍政権時に着手し、07年2月に有識者会議の報告書をとりまとめ、同年4月に法案を国会提出しました。しかし、同年9月の首相の政権投げ出しで廃案になりました。
国家安全保障会議創設に関する有識者会議メンバー
議長:安倍晋三首相
青山繁晴独立総合研究所社長
礒崎陽輔首相補佐官
漆間巌元警察庁長官
折木良一前統合幕僚長
金子将史PHP総研主席研究員
菅義偉官房長官(国家安全保障強化担当相)
中西輝政京都大名誉教授
西原正平和・安全保障研究所理事長
増田好平元防衛事務次官
宮家邦彦立命館大客員教授
宮崎緑千葉商科大政策情報学部長
谷内正太郎内閣官房参与(元外務事務次官)
解説
アルジェリア事件軍事強化の口実に
政府は「アルジェリアの件もあったので、そう時間をかけて(議論)ということはない」(菅義偉官房長官、14日会見)として、アルジェリアの人質事件を理由にNSC設置を急ぐ姿勢です。しかし、今回の事件は日本にNSCがなかったために邦人が犠牲になったわけではありません。安否確認をめぐり官邸に集まる情報は錯綜(さくそう)しましたが、情報の分析・集約体制と、邦人の安全確保は別問題です。
むしろ、必要なのは現地で事前に危険を知るための情報収集や外交努力であり、テロ活動を根絶していくための国際協力の充実です。
安倍首相が第1次内閣時に米国のNSCをモデルに設置を目指したのは、当時ブッシュ政権が推し進めていた対テロ先制攻撃戦争の一翼を担うために、自衛隊の海外派兵をトップダウンで進めたいとの狙いからでした。人質事件は、退陣で挫折した構想を実現するための口実にすぎません。
政府・与党内では、この事件を契機に「邦人救出」のためとして自衛隊法を改悪し、海外派兵の範囲を広げようとする動きも出ています。結局、「官邸機能の強化」として安倍政権が目指すのは軍事対処機能の強化です。
官邸の軍事司令塔機能の強化は、国による情報統制の危険と背中あわせです。第1次安倍政権時に提出された有識者会議の報告書は「速やかに(情報を)漏えいした者に厳しい処罰を定めた法律をつくることが必要」と秘密保護のための法整備を提言。「秘密保全法制」策定の作業は、民主党政権下でも着々と進められました。国家公務員だけでなく民間人も処罰の対象とする、国民の知る権利を侵す危険のある法制がつくられようとしています。(池田晋)
国家安全保障会議(日本版NSC) 国家安全保障に関する政策の立案や関係省庁間の調整を行う米国NSCをモデルにした新組織。旧法案では首相、外相、防衛相、官房長官で構成され、NSC担当首相補佐官の設置も検討されていました。