2013年1月9日(水)
軍事費増額方針と「防衛大綱」見直し
国益損ねる戦略なき暴走
憲法で軍事力保持を禁じられているにもかかわらず、日本の軍事費は1960年代以降、右肩上がりで推移し、米国に次ぐ世界第2位の軍事大国だった時期が続きました。
2002年度の4兆9560億円をピークに漸減傾向が続きましたが、見せ掛け程度の削減で基本構造は変わらず、5兆円規模を維持してきました。日本は現在も米中に次ぎ、ロシアや英国、フランスなどと並ぶ世界有数の軍事大国です。
加えて、今年度は東日本大震災の復興予算に軍事費を潜り込ませ、実質的に前年度を上回っていました。
政府・自民党が掲げた軍事費1000億円増額方針は、時計の針を、堂々と軍拡できる時代まで戻そうという狙いです。その口実が周辺国の動向です。
軍拡競争加速
「周辺国や北朝鮮のミサイルなど緊張のある事案がある。即応性があるような予算編成を私どもは心掛けている」。小野寺五典防衛相は8日の記者会見でこう述べ、中国や北朝鮮の動向を理由に、軍事費の増額へ強い意欲を示しました。
防衛省は中国、ロシア、韓国などが過去10年間、いずれも軍事費を大きく増やしていることを挙げて、軍事費増額の要求を出し続けていました。
ただ、周辺国が軍拡を進めているから自分たちも軍事費を増やすというのであれば、北東アジアの軍拡競争を加速させ、軍事対軍事の悪循環を強めかねません。北朝鮮に核・ミサイル開発を進める口実を与え、尖閣諸島問題の外交的な解決も遠ざけ、結局は国益を損ねてしまいます。
加えて、軍事力は単年度の予算だけで整備することはできません。10年〜20年の調達期間が必要です。過去数十年間、日本は周辺国に先駆けて軍事大国の道を歩み、すでに世界でもトップレベルの装備を備えている事実を見なければなりません。
具体性見えず
軍事費増額と同時に提起された「防衛計画の大綱」見直しですが、おおむね10年先を見越して2年前に策定された現大綱をなぜ、どのように見直すのか。現時点で具体的な内容は見えてきません。
過去の大綱見直しでは、官邸で「有識者」による懇談会を数カ月にわたって開き、提言をまとめています。同時並行で防衛省や与党内での検討も行い、政府がそれらを踏まえて策定していました。従来の作業を踏まえると、年内の改定はとうてい不可能です。
結局、「民主党政権がつくった大綱にもとづいて防衛力整備をしたくない」という以上の動機が見えてきません。そのような大綱に基づいて軍事費純増路線に戻そうというのなら、戦略なき暴走といわざるをえません。 (竹下岳)
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