2012年6月8日(金)
技術者の軍事動員可能に
JAXA法改定案 きょう審議入り
宇宙の軍事利用を進める体制整備にむけた関連法案が、8日の衆院内閣委員会で審議入りする見通しです。7日に開かれた同委員会理事懇談会で、提案理由説明を8日に行うとしました。日本共産党の塩川鉄也議員は理事懇で、「審議するのであれば、慎重審議で参考人質疑を行え」と求めました。関連法案は、宇宙航空研究開発機構(JAXA)法、内閣府設置法、文部科学省設置法の各改定案など。
JAXAは日本の宇宙開発を担う独立行政法人。現行JAXA法はその業務を「平和の目的に限り」行うと定めています。野田内閣が提出した改定案はこの規定を削除し、平和目的のもとでJAXAが培ってきたロケットや人工衛星などの最先端の技術、研究者・技術者の軍事動員を可能にするものです。
改定案は「国際的な平和及び安全の維持」などの必要性があれば主務大臣がJAXAに「必要な措置」を求めることができるとしており、防衛相によるJAXAの直接動員にも道を開いています。またJAXAの業務として、民間事業者の求めに応じて「援助」や「助言」を行うことも盛り込みました。JAXAの中期目標の策定は、「安全保障」や「産業育成」などを柱にした宇宙基本計画に基づくこととしています。
内閣府設置法改定案は、宇宙政策の“司令塔”機能を内閣府にもたせるとともに、衛星の整備・管理を所掌事務に追加。「日米協力の強化」や「安全保障」に役立つとして前のめりで進めている準天頂衛星システムの推進体制を整備します。
これまで宇宙開発の長期的計画を担ってきた文科省宇宙開発委員会を廃止(文科省設置法改定)し、内閣府に宇宙政策委員会を新設します。
解説
宇宙軍拡の流れの一環
JAXA法改悪の動きは、自民・公明・民主の3党が2008年に宇宙基本法を強行成立させ進めてきた、宇宙軍拡の流れの一環です。基本法は、1969年の国会決議で「非軍事」に限定されてきた日本の宇宙開発に、軍事利用の道を開く狙いで導入。今回の改定案は、日本唯一の宇宙機関であるJAXAを、基本法の理念を具体化する“実行部隊”として軍事動員を可能にするものです。
これまでもJAXAは、災害対応などを口実に98年に導入された情報収集衛星(内閣官房が運用し防衛省などが利用する事実上の軍事スパイ衛星)の開発・運用に関与してきました。しかし、法改悪により、いっそう宇宙軍拡が進むことが懸念されます。
一方、宇宙政策が軍事優先で進み、民生分野を圧迫することも心配されます。宇宙開発の「自主・民主・公開」の原則がないがしろにされ、研究発表の自由が制約されたり、予算面でも民生分野が軽視されることが予想されます。情報収集衛星の実態はこの恐れを先取りしています。軍事機密保護を口実に情報管理・罰則が強化されたり、研究者が身元調査や思想調査される危険もあります。
背景には、宇宙産業界が新たな軍需ビジネスを展開するため「民生と防衛のデュアルユース」(軍民共用)を重視していることや武器輸出三原則緩和による兵器の国際共同開発への動きもあります。
憲法の平和原則に反する重大な動きに、国民からは反対の声があがっています。日本人初の宇宙飛行士でジャーナリストの秋山豊寛・京都造形芸術大学教授らが呼びかけた改悪反対のインターネット署名に、平和を願う市民や科学者、JAXA職員から賛同メッセージが多数寄せられているほか、平和団体や科学者団体が反対を表明しています。国民の批判を受け止めて、廃案にすべきです。 (中村秀生)