2012年3月1日(木)
主張
秘密保全法
知る権利の侵害は許されない
国民の「知る権利」を奪う「秘密保全法案」の作成を急ぐ政府の動きに、日本弁護士連合会をはじめ日本新聞協会、メディア関係者など各界、各層から反対の声が噴き上がっています。
法案は秘密保全の対象を「国の安全」だけでなく「外交」「公共の安全及び秩序の維持」の分野にまで広げ、罰則も懲役10年以下に引き上げるものです。秘密情報にかかわる国家公務員や民間企業の従業員が秘密情報を外部に流出させないことが表向きの理由にされてはいますが、ほんとうの狙いが国民やメディアの目をふさぐところにあるのは明らかです。
目的は軍事態勢の強化
国民は膨大な秘密情報をいまでも知ることができません。防衛省だけでも、防衛相が指定する「防衛秘密」が4300件、日米相互防衛援助協定に伴う秘密保護法による「特別防衛秘密」が9千件、官房長が指定する「省秘」が10万9千件にもおよびます。(2007年現在)。外務省も日米の「密約」など多くを秘密扱いにし、警察や公安分野も同じです。国政の重要情報を国民から隠すこと自体、重大問題です。
こうした「秘密情報」を重罰主義の徹底で保全するのが「秘密保全法案」です。国家公務員法では1年以下の懲役とされているものを保全法案では「特別防衛秘密」なみに懲役10年以下に引き上げる計画です。自衛隊法が定めている「懲役5年以下」も10年に引き上げられます。秘密情報にかかわる民間企業の従業員も例外ではありません。「1年」では「抑止力が十分でない」から重罰を科すという政府の姿勢は、「軍機保護法」などで国民の目をふさいで侵略戦争に突き進んだ戦前の暗黒政治を思い起こさせるものです。
政府が秘密保全法の制定に躍起なのは、日米両政府が07年に結んだ「秘密軍事情報保護協定」(GSOMIA)を根拠にしたアメリカの要求に応えるためです。アメリカの狙いは日米軍事同盟強化のために日本に提供している秘密情報の保全を徹底させることです。
保全法案が日米軍事一体化促進のバネになるのは明白です。政府は2010年の海上保安官による中国漁船衝突事件の映像流出問題を秘密情報保全強化の理由にしてきましたが、それが口実にすぎなかったことは明白です。
国民の知る権利は、憲法が認めた国民主権原理や民主主義を実現するために必要不可欠な権利です。政府が秘密を拡大し、国民が国政の重要な情報を知ることができないようにするのは、憲法に照らして絶対に許されるものではありません。秘密保全法に反対の声があがっているのは当然です。
情報公開加速してこそ
秘密保全法の運用次第で取材や報道の自由が侵害されうる問題は見過ごしにできません。国の行政機関の職員から取材する行為を、秘密漏えいを「働きかける行為」とみなし、「悪質性が高い」として処罰対象にすることを政府が検討しているからです。取材のやり方次第で処罰するというのはまさに取材の自由の侵害そのものです。
いま求められるのは、情報公開の流れを加速し、国民が国政の重要な情報を知ることができるようにすることです。情報公開にも逆行する秘密保全法案づくりは即刻やめるべきです。