2011年8月30日(火)「しんぶん赤旗」

主張

裁判権「密約」

ごまかさずきっぱり破棄せよ


 外務省が26日、在日米軍人らの「公務外」犯罪について、重要案件以外は裁判権を放棄すると日本側が約束した「日米密約」文書を公表しました。

 「密約」文書自体はすでに国際問題研究者の新原昭治氏が明らかにしていますが、日本政府が文書の存在を確認し、公表したのは初めてです。しかし公表に先立って日米合同委員会を開き日米両政府が口裏を合わせて、日本側の裁判権放棄の約束が「日本側の一方的な政策的発言」であって、日米間の合意ではないと「密約」の事実を否定したのは重大です。

“特別扱い”否定せず

 今回公表された「密約」は、1952年の旧安保条約にもとづく行政協定17条(刑事裁判権)の改定交渉で合意されました。「密約」は飲酒運転による事故なども米軍の「公務中」だとして米兵を特別扱いにして、日本の刑事裁判権が及ばないようにするなど主権国家では許されないとりきめです。

 とりわけ重大なのは、「公務外」犯罪は日本が第1次裁判権をもつと米軍地位協定でも明記されているのに、重大な事件以外は裁判権を放棄すると約束したことです。

 53年10月28日の日米合同委員会裁判権小委員会刑事部会で日本側代表の津田実法務省総務課長は、「日本国にとって実質的に重要」な事件以外は「第1次の権利を行使する意図を通常有しない」と表明しています。もともと日本側に在日米軍人らの裁判権を与えることに難色を示していた米側が17条改定に合意したのはこの約束表明があったからです。日本政府が第1次裁判権の大部分を放棄する約束を米側にしたのはまぎれもない事実です。津田課長が署名した発言記録の原本が米側にのみ保管され、日本側になかったという事実も津田発言が日米合意だということを示しています。

 法務省は、津田発言のあった日米合同委員会小委員会に先立って、刑事局長名で全国の検事正に、「実質的に重要であると認める事件についてのみ第1次裁判権を行使する」との通達をだし、「密約」の実施を徹底させました。津田発言が実効性をもった対米約束だということを米政府に示すための措置です。法務省はこの通達が「現在も有効」(甲斐行夫官房審議官)としています。

 実際、検察の米兵犯罪起訴率が異常に低くなっています。外務省によれば行政協定下の54年の起訴率は2・5%、地位協定下の61年は9・3%です。2008年の起訴率は「窃盗」で日本人42・4%に対し米軍人らは5・3%、「自動車による過失致死傷」で日本人21・8%に対し米軍人らは7・9%にすぎません。検察が米兵を特別扱いにしているのは明白です。これでは主権国家としての責任を果たせるわけがありません。

主権放棄の異常ただせ

 米軍基地の周辺はどこでも米軍人らの犯罪におびえる生活を住民は強いられています。とくに沖縄では連日のように犯罪が起きており、事態は深刻です。政府が裁判権を放棄していることが米兵犯罪を助長しているのは明白です。

 裁判権放棄の「密約」をそのままにして苦しむのは国民です。裁判権放棄の「密約」を維持するための政府のごまかしを許さず、ただちに破棄するよう求めていくことが重要です。





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