2011年7月19日(火)「しんぶん赤旗」
主張
「つくる会」系教科書
歴史を偽っての愛国心は論外
この夏、来年度から使用される中学校教科書がいっせいに採択されます。
歴史と公民では、“日本は正しい戦争をやった”と子どもに思い込ませようという、「つくる会」系教科書(自由社、育鵬社)の採択を許すかどうかが問われます。
侵略の過去反省してこそ
自国の歴史、とくに近現代史の学習は、子どもたちが主権者として成長していく上で、大きな意味をもっています。
日本はその時代、他国を侵略し、植民地にし、アジア諸国民に甚大な被害を与えました。そうした国が過去の行為をきちんと反省することは、国際社会にたいする当然の責任です。同時にそのことは、国民が平和と民主主義の精神で自らの道を堂々と歩いていくために、欠くことのできない問題です。
ところが「つくる会」系教科書の描く近現代はどうでしょう。
日本は明治時代から、白人支配からアジア諸国民を解放する事業の先頭に立ってきた、植民地では経済が発展した、英米との太平洋戦争は日本の自存自衛とアジア解放を目的とした戦争だった―要するに日本はいいことをやってきたんだ、それに誇りをもとうという内容です。
こんな教育がおこなわれたら、日本の前途も、日本とアジア諸国、さらには世界との関係も、危うくなります。
公民教科書では、大日本帝国憲法は人権を大事にした、いい憲法だと描いています。しかし、帝国憲法のもとでは主権者は天皇で、国民の権利は制限され、言論の自由や集会の自由もありませんでした。
さらに、いま大問題になっている原子力発電については、露骨な推進論が書かれています。国民は国策に協力すべきだと言わんばかりに、子どもに原発推進を教えることは許されません。
見過ごせないのは、「つくる会」系教科書を推進する勢力が、自分たちの教科書を「新教育基本法で重視された愛国心に一番いい教科書だ」と言って、採択をひろげようとしていることです。
愛国心は、個人の思想・良心の問題であり、特定の心を強制することは憲法上許されません。教育として大切なことは、自国の歴史や文化などの事実に基づく学習や、憲法の平和的民主的原則の学習をつうじて、子どもが自主的に愛国心を考えていけるようにすることです。
ところが「つくる会」系教科書は、歴史をゆがめ、それによって愛国心を醸成しようというものです。これはゆがんだ愛国心であり、「(愛国心は)国家至上主義的な考え方や全体主義的なものになってはならない」と明記した教育基本法「改正」の中央教育審議会答申に照らしてさえ論外です。
教育にふさわしい採択を
偽りの歴史からはまともな愛国心はうまれません。国民の誇りは、負の歴史にも誠実に向き合ってこそ育まれるはずです。
教科書採択の本来の目的は、子どもの学習にもっとも良いものを選ぶことです。そのためには実際に教えている各専門の教員の意見が重視されなければなりません。
侵略戦争を肯定する教科書を許さない運動を広げるとともに、教育の営みにふさわしい採択がおこなわれることを訴えます。