2011年6月15日(水)「しんぶん赤旗」
主張
障害者と節電
一律「がまん」では知恵足らぬ
高齢者や障害のある人、妊婦、乳幼児連れの人など、すべての人が快適な生活をおくれるよう、障壁を取り除いていく「バリアフリー」の実現をめざすことは社会的な要請です。ところが、東京電力福島第1原発事故後の節電で、多くの障害者に「がまん」が強いられているのは見逃せません。
暗い駅、止まったエスカレーター、電車の運行本数減での混雑など、障害を持たない人には想像もつかないつらさです。障害者を置き去りにした一律の節電ではなく、きめこまかな対策が求められています。
あまりに機械的だ
駅の照明が暗いなど、節電によって障害者が不便を感じている問題で、東京視覚障害者協会が、会員の要望の確認、駅周辺の実地調査などにとりくんでいます。
▽エスカレーターが止まり併設の狭い階段に乗降客が集中し、人にぶつからずには歩けない▽駅入り口の誘導チャイムやホーム階段を示す音の案内が止まっている▽エスカレーター停止の音声案内がなく入り口をふさぐ鎖につまずき転んだ―など、深刻なトラブルが障害者をおそっています。
視覚障害者でもまったく見えないわけではありません。全国で約165万人の視覚障害者の87%約145万人は、失明していない目の矯正視力が0・5未満の「見えにくい人」です。目から得る光の情報が大事なのです。
この人たちにとって駅の暗さは死活問題で、「これまで通いなれた場所なのに目印がわからず道に迷ってしまう」、「点字ブロックの場所が分からない」と悲鳴があがっています。とりわけ、暗いところで視力が失われる夜盲を伴う網膜色素変性症の人には、駅が完全な闇の世界になっています。
不便は視覚障害の人だけではありません。ポリオで日常の歩行に杖(つえ)を使う女性は、エスカレーターに乗れず、エレベーターも不便な場所にあるため、通勤が困難で、「仕事をやめなければならないかもしれない」と訴えています。
障害者の人たちは、いまの節電に反対しているわけではありません。照明を間引くときに点字ブロックの上だけは切れ目なく光が当たるようにしてほしい、大事な目印となる案内板の光を弱くしないでほしいと、最低限の心遣いを求めているのです。事故に結びつけば生死にもかかわることなのに、あまりに機械的な節電の危険性を訴えているのです。
国土交通省は、今回の節電について「基本的に鉄道事業者が判断すること」としています。しかし、バリアフリー法を所管する同省は、ガイドラインに従い、高齢者や視覚障害者に配慮した十分な駅の明るさの確保を事業者に指導する責任があります。障害者の立場に立ち、その責任を果たすべきです。
だれもが人間らしく
深刻な原発災害をうけ、これからの日本は原発からの撤退と自然エネルギーの本格的な導入が求められます。同時に、エネルギー浪費型の社会ではなく、低エネルギー社会への大きな転換を図ることが避けられません。
その道は「がまんの社会」をつくることではないはずです。だれもが人間らしく働き、暮らせる社会を実現すること、バリアフリーの実現もそうした社会への大きな柱です。
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