2011年6月1日(水)「しんぶん赤旗」
「景気に悪影響ない」「逆進性ない」というが…
消費税増税先にありき
内閣府報告書
政府の「社会保障改革に関する集中検討会議」に5月30日提出された内閣府の調査報告書は、消費税が持つ逆進性や景気への悪影響を否定し、消費税率の引き上げを「段階的に行うことが適切」と明記しました。“先に消費税増税ありき”の暴論を見てみます。(山田英明)
「そもそも消費税の逆進性自体それほど大きなものではない」。報告書はこう断言。消費税による税負担が「不公平ではない」と主張しています。
消費税は、低所得者ほど負担が重くなる逆進性(図)を持ちます。高所得者ほど収入のうち、消費のほかに貯蓄や投資に回す分が多くなるためです。
“架空の前提”
報告書が逆進性を否定する根拠とするのは、“消費税は生涯所得に対する比例税”という見方。つまり、年齢が若いうちは、高所得者ほど収入を貯蓄に回す分が多く、同じ年齢の低所得者と比べて収入に対する消費の割合に逆進性があるものの、年をとるにつれて多くの人が貯蓄を取り崩して収入以上に消費するため、“生涯を通して見れば逆進性はない”というものです。
これは、一生を通してため込んだ貯蓄をすべて消費し尽くすという架空の前提に立ったものにすぎません。
実際は、年をとって貯蓄を取り崩して消費するといっても、収入に対する消費の割合は、若い時の逆進性を帳消しにするほどの効果はありません。やはり消費税は生涯を通しても逆進性をもちます。
かつて閣僚は
報告書は、消費税増税が「景気後退の『主因』であったとは考えるのは困難」と結論付けました。
1997年4月に消費税率が3%から5%へ引き上げられました。
当時、医療改悪や特別減税の廃止も含め、国民に押し付けられた負担増は約9兆円。かつてない負担増がその後の景気後退(図)を招いたというのが世間の定説です。報告書は真っ向からこれを否定します。
9兆円の負担増については、これを押し付けた橋本龍太郎首相(当時)自身、負担増が「不況の原因の一つになっている」(2001年4月12日、自民党総裁選の共同記者会見)と認めていました。小渕内閣(当時)の経済企画庁長官だった堺屋太一氏も、消費税増税が「失政だと思っている」(98年8月18日の衆院予算委員会での答弁)と語っていました。
竹中平蔵経済財政担当相(当時)は04年12月8日の経済財政諮問会議で、「単年度でGDP比0・5%ぐらい、2・5兆円程度の負担増は甘受すべきだと思うが、GDP比1%、5兆円に達するような負担増は注意しなければいけない。オーバーキル(過剰攻撃)の可能性がある」と提言しています。
定率減税半減と年金保険料の引き上げなどで単年度約2・5兆円の負担増を国民に押し付けた竹中氏ですら、それを超える負担増を「オーバーキル」だと認めていました。つまり、9兆円の負担増は日本経済に深刻な悪影響を与えていたことは確かです。
財務省が描く段階的な消費税増税は、「オーバーキル」が繰り返されるということです。
被災地に痛み
消費税増税はなによりも、被災地の復旧・復興に悪影響を与え、水を差します。
所得がなくても課せられる消費税は、仕事や生業を奪われ、収入を得るのがままならない被災者にすでに重くのしかかっています。
逆進性をもつ消費税の増税によって、被災者にはいっそうの痛みが押し付けられることになります。消費税は被災地だけ軽減・免除するということが、困難な税制です。
財務省が描くのは、15年までに税率10%とする構想です。復興が進み被災者が仮設住宅を出て新たな自宅を建築しようとする、その建築費用にまで増税された消費税が課せられることになりかねません。
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