2011年5月23日(月)「しんぶん赤旗」
保育所の被災 実態調査「予定なし」
市場任せ制度のスタート待ち?
東日本大震災で被災した保育施設の状況や、避難先で保育所入所を希望する子どもたちの実態の把握について、厚生労働省の消極姿勢が際立っています。 (鎌塚由美)
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厚生労働省によると、震災による保育施設の被害状況は「岩手県34件、宮城県131件、福島県38件」となっています。これは4月18日時点で公表している数字で、「社会福祉施設全般の報告の中から、保育所の数を抜き出したもの」(保育課)。統計処理ではじき出した数字で、「保育所として詳細な調査はしていない」といいます。
一方、各県によると、岩手県67カ所(全壊は11カ所、5月9日現在)、宮城県253件(全壊は15カ所、5月13日現在)、福島県115カ所(全壊は2カ所、4月末現在)となっています。
厚生労働省は、被災地で親が自宅の復旧や家族の捜索にあたる場合、「『保育に欠ける』と認定して差し支えない」と通知しています。被災地ではすべての子どもが保育所を必要としている状況にあることを厚労省も認識しており、これまで保育所に入っていない子どもも含め積極的に保育所入所が奨励されなくてはなりません。
しかし、厚労省は一般的な通知を出すだけで、被災地を離れて他の市町村で保育を受ける広域入所の数についてもつかんでいません。同省は「調査もしていないし、する予定もない」(同課)といいます。
財政支援もなし
阪神・淡路大震災(1995年1月)で厚生省(当時)は調査を行い、地震発生から1カ月半の2月末時点で広域入所は「1716人」と報告していました。
避難先で保育所入所を希望する子どもの保育料の減免についても、厚労省は「独自に避難先市町村の負担で保育料の減免を行うことは差し支えない」と述べているだけです。国から市町村への財政支援はありません。減免した保育料は、被災した自治体が避難先市町村に支払うことになるので、結局は被災自治体の負担になります。
阪神・淡路大震災の時は、利用者負担全額の減免を認め、「(減免に)かかる費用については国庫補助の対象とする」(95年1月25日)と通知していました。このときと比較しても、今回の国の対応は冷たいものとなっています。
法は「国が責任」
その背景について帝京大学の村山祐一教授は、2004年に行われた公立保育所運営費の一般財源化や、13年度導入を狙って6月にも成案をまとめようと強引に議論が進められている「子ども・子育て新システム」の導入の動きがあると指摘します。
現行制度では国や自治体に保育を実施する義務がありますが、新システムではその義務がなくなり、保育の提供は市場任せになります。村山教授は「新システム導入を見込んでいることが、驚くばかりの国の消極姿勢につながっていると思う。厚労省はいつから、児童福祉に責任を持つという意識がなくなったのか。児童福祉法では国の責任がうたわれている。国は制度を踏まえ今こそ責任を果たすべきです」と語っています。
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