2011年3月4日(金)「しんぶん赤旗」

主張

命守れない医療保険

胸が痛むなら改めるべきだ


 国保料(税)が高すぎて払えずに無保険に陥り、医者にも行けずに病状が悪化して死亡―。正規の保険証を持っていても窓口負担が払えずに受診が遅れて死亡―。

 経済的な理由によって医者にかかれなかったり、受診が遅れたりしたために死亡に至る悲惨な事例が増え続けています。

 1961年の「国民皆保険制度」のスタートから50年、高すぎる保険料と重い窓口負担が国民の命と健康を守る制度の根幹を掘り崩しています。

重い保険料と窓口負担

 全日本民主医療機関連合会(全日本民医連)の昨年1年間の調査によると、生活が困窮して受診が遅れたために死亡に至ったとみられる事例が71件に上りました。加入している病院や診療所など1767施設に対する調査です。

 2005年にこの調査を開始して以来、こうした死亡事例の報告は年々増加しています。昨年は一昨年の1・5倍へと大幅に増えました。特に国保や協会けんぽ、後期高齢者の正規保険証を持っているにもかかわらず、窓口負担への不安から受診が遅れて死亡した事例は10件から29件へ3倍に増えています。

 全日本民医連が困窮した患者への支援を強めてきた結果として実態が明るみに出て、報告事例が増えている面もあります。これは、社会保障としての医療が多くの国民の命を守れなくなっている深刻な現実が、調査を進めるにつれてますます浮き彫りになっていることを示しています。報告事例は深刻な現実の氷山の一角にすぎないということです。

 報告事例のうち、32歳で亡くなった男性の場合は長期にわたって無保険だった可能性が高いとみられます。重いぜんそくで高校を中退した後も定職に就けず、非正規雇用とネットカフェでの生活を余儀なくされ、病状が悪化して救急搬送されました。糖尿病性の意識障害と診断されて緊急入院したものの、10日後に敗血症ショックで死亡しました。

 規制緩和で非正規雇用を増やして「働く貧困層」を拡大してきたこと、最悪の水準が続いている失業と高すぎる国保の保険料が膨大な無保険者を生み出しています。

 国保の正規保険証を持っていた51歳の女性は黄疸(おうだん)や鼻からの出血の症状がありながら、生活が困窮していたために治療費への不安で受診が遅れました。初診時に進行乳がんなどの診断で即日入院となり、間もなく亡くなりました。

 窓口で支払う本人負担が、所得の減少が続く家計に重くのしかかっています。

国庫負担を増やして

 政府は無保険などの実態調査もせずに保険料の「収納対策」に終始しています。民主党政権は市町村の一般会計からの繰り入れをやめて「保険料の引上げ」に転嫁せよという通達まで出しました。

 「収納対策」とは保険証の取り上げとサラ金まがいの保険料取り立てです。年金や学資保険の差し押さえまでやっています。

 こんな実態に菅直人首相は「胸が痛む」と国会で答えました。国民の命と健康を守ることは最も基本的な国の責任です。減らし続けてきた国保への国庫負担を大きく増やして高すぎる保険料を是正し、窓口負担の軽減に踏み切ることが緊急に求められます。





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